「クロユリに代表的な花言葉のひとつに、"呪い"ってのがある。これは富山の伝説が元になっていて、戦国武将の佐々成政《さっさなりまさ》が側室の早百合《さゆり》が不貞を働いたという告げ口に騙され、懐妊中だった早百合を殺してしまったんだ。彼女は死の間際に"立山にクロユリが咲いたら佐々家は滅亡する"と言い残してな。なんやかんやあって、結果的に佐々家は滅亡してしまいましたって話だ」

「なんやかんやで滅亡、ですか」

「ああ、それもクロユリが関わったなんやかんやだ。詳しく知りたかったら夜にでも話そうか。長くなっちまうからな。それと……」

「一方、"愛"という花言葉もあるのですよ」

 ずいと私の眼前に、にこにこと笑む玄影さんの顔。
 マオが「あ、てめっ」と慌てふためくもなんのその、玄影さんは「どうぞ」と私の掌にクロユリを乗せる。

「こちらは北海道……アイヌ民族の言い伝えといわれています。好いた相手の近くに密かにクロユリの花を置いて、誰が置いたのかもわからないその花を想い人が手に取ったなら、二人は結ばれるだろう。可愛らしいおまじないですね」

「おまじない……」

「そのまじないが造花でも有効なら、僕と茉優さんは結ばれる運命になりますね。こうして受け取ってくれましたから」

「まてまて、"誰が置いたかもわからない"が重要になっているのなら、茉優の相手がそのストーカー野郎になっちまうだろうが」

「許せませんね。造花は無効にしましょう」

(そもそもこの花を入れた人の想い人が里香さんなのだから、私は関係ないんじゃ?)

 気が合わないと思いきや、今度は意気投合している二人。私は掌に乗る布製のクロユリを見つめ、思考を深める。
 愛した人に裏切られたが故の呪いと、恋のおまじない。

「……里香さんの元彼さんが、付きまとっているんですか」

「すみません。あまり深い話は、僕からは。ひとつだけ言えるのは、僕のような"ペット"が必要になった理由はこれですね。なので僕はこの部屋でただ契約のうえ飼われているだけで、主人とは清い関係です」

「"主人とペット"なんて言っている時点で、清さとは無縁だと思うんだが?」

「おや、ペットに欲情するタイプでしたか。大変な失礼を」

「そういう話じゃないし、するわけないだろ!?」