気づいてしまえばますます恥ずかしくなるだけで、とにかく離れなければと両手を上げて、勢いよく後ずさった。
 途端、マオは焦ったように手を伸ばして、

「茉優、危な――っ」

「おっと、間一髪でしたね」

 背にあたった衝撃と声に見上げれば、にこりと笑む玄影さんが。その後ろにはドア枠が見える。
 私が当たる前にと、間に入ってくれたのだろう。

「すみません、玄影さん! お腹と背中、大丈夫ですか!?」

「ええ、僕はなんとも」

 ほっとしたのもつかの間、

「てめっ、また茉優に……! と、いいたいとこだが、今回ばっかりは許してやる……っ!」

「おや、案外分別のある方なんですね。てっきり感情任せの束縛男かと踏んでいたのですが」

「な!?」

(爽やかな笑顔でなんかすごいワードが……)

 マオと玄影さんはお互い苦手なタイプなのかな、と考えつつ、「ありがとうございました」と頭を下げ。

「玄関、見てきますね」

「いや、俺が行く。何か入れられたんだろ? 茉優は万が一を考えて、連絡できるように用意しててくれ」

「でも……」

「心配は無用ですよ。害のあるものではありませんから」

「え?」

 スタスタと玄関のドアまで歩を進めた玄影さんは、私達に一度微笑むと躊躇なく郵便受けをガコンと開けた。
 玄影さんが手を差し入れる。
 引き抜かれたその手には、ピンポン玉ほどの黒い塊が握られている。

「花……なのか?」

 私を背に庇うようにして立っていたマオが、訝し気に目を細める。
 玄影さんは「造花ですね」と戻ってきて、私達に見えるよう掌を開いてくれた。

 紫を帯びた黒い花弁が六枚。
 丸く膨らんだ根本から先にかけて星型に広がるその中央には、黄色い花芯《かしん》が。

「黒いチューリップ……でしょうか」

「おそらくは、クロユリではないかと」

「クロユリ? また大層な恋文だな。ストーカーがいるのか?」

「まあ、当たらずとも遠からずというところでしょうか」

「え? あの、すみません。恋文とかストーカーとか、どうして分かるんですか?」

 小さく挙手した私に、マオが「花言葉がな」と肩をすくめる。