すると、たまらずといった風にして、玄影さんが拭き終えた箇所を指でくっとなぞった。
「油、取れてますね」
「ええと、たしかビールのアルコールが油をやわらかくして、タンパク質がその油分を浮かせてくれて、それからビタミンEが分解してくれる……とかだったと思います。すみません、教えてもらったのが随分前なので、曖昧になってしまうんですが」
「いえ、勉強になりました。洗剤を使うと、その後の拭きあげが案外億劫で。これだと泡立つこともなくていいですね」
「場所が場所ですから、泡が残ると気になりますもんね……。汚れが頑固な時は、ペーパーの上からラップを被せてしばらく置いてから拭いてもらうと、汚れが取れやすくなります」
話しながらコンロを拭きあげ、「最期に水拭きをして完成です」と絞った布巾で仕上げを。
「炭酸が残っている状態だとより効果がありますし、電子レンジ内のこびりつきにも有効的ですので、よかったら試してみてください」
「よく覚えておきます。本当……捨てるばかりが道ではありませんね。特に、自分で捨てきれないものは」
(ん?)
どこか含みを感じて、思わず玄影さんの顔を見遣る。
けれどにこりと笑む玄影さんは特に変わった様子はなく、私は気のせいかなと電子レンジ内の掃除に取り掛かった。
ビールは使い切ってしまったので、こちらは別の方法で。
まず、耐熱容器に水を入れて、レンジ内に水蒸気が行きわたるまで加熱。
火傷をしないよう気を付けて、温まったことで緩んだ汚れを拭きとっていく。頑固な汚れには、重曹水で。
玄影さんはどうやら私を丁度いい"暇つぶし"に認定したらしい。
部屋に戻ることなく、作業する私をにこにこと眺めている。
(そういえば、玄影さんって里香さんの事情をどこまで知ってるんだろ)
肩書は"ペット"とはいえ、生活を共にしているのだから知っていてもおかしくない。
けれど……沙雪さんのように、誰にも話していない可能性も大いにある。
(不用意なことは言わないようにしないと)
でも、もし。里香さんの"相談事"が沙雪さんのように"誰にも打ちあけられない"といった類だとしたら。
玄影さんの存在を考えると、聞きだすのは難しい。
(その時は……マオとお買い物に行ってもらうとか?)
「油、取れてますね」
「ええと、たしかビールのアルコールが油をやわらかくして、タンパク質がその油分を浮かせてくれて、それからビタミンEが分解してくれる……とかだったと思います。すみません、教えてもらったのが随分前なので、曖昧になってしまうんですが」
「いえ、勉強になりました。洗剤を使うと、その後の拭きあげが案外億劫で。これだと泡立つこともなくていいですね」
「場所が場所ですから、泡が残ると気になりますもんね……。汚れが頑固な時は、ペーパーの上からラップを被せてしばらく置いてから拭いてもらうと、汚れが取れやすくなります」
話しながらコンロを拭きあげ、「最期に水拭きをして完成です」と絞った布巾で仕上げを。
「炭酸が残っている状態だとより効果がありますし、電子レンジ内のこびりつきにも有効的ですので、よかったら試してみてください」
「よく覚えておきます。本当……捨てるばかりが道ではありませんね。特に、自分で捨てきれないものは」
(ん?)
どこか含みを感じて、思わず玄影さんの顔を見遣る。
けれどにこりと笑む玄影さんは特に変わった様子はなく、私は気のせいかなと電子レンジ内の掃除に取り掛かった。
ビールは使い切ってしまったので、こちらは別の方法で。
まず、耐熱容器に水を入れて、レンジ内に水蒸気が行きわたるまで加熱。
火傷をしないよう気を付けて、温まったことで緩んだ汚れを拭きとっていく。頑固な汚れには、重曹水で。
玄影さんはどうやら私を丁度いい"暇つぶし"に認定したらしい。
部屋に戻ることなく、作業する私をにこにこと眺めている。
(そういえば、玄影さんって里香さんの事情をどこまで知ってるんだろ)
肩書は"ペット"とはいえ、生活を共にしているのだから知っていてもおかしくない。
けれど……沙雪さんのように、誰にも話していない可能性も大いにある。
(不用意なことは言わないようにしないと)
でも、もし。里香さんの"相談事"が沙雪さんのように"誰にも打ちあけられない"といった類だとしたら。
玄影さんの存在を考えると、聞きだすのは難しい。
(その時は……マオとお買い物に行ってもらうとか?)