「先日お話した通り、私の両親は七歳の時に亡くなりました。それからは、祖母が育ててくれて。だからなのか、"夫婦"という存在をよく知らないんです。知識とはしてはあります。生きていくうえで、"夫婦"はどこにでも存在しますから。だけど私にとって"夫婦"は、あの日帰ってきてくれなかった"お父さんとお母さん"で、何年歳を重ねようと、私はどうしても"子供"のままなんです。自分が誰かと"夫婦"に、"お父さんとお母さん"の位置になるなんて、考えもしませんでした」

 身体は、社会的立場はすっかり大人だというのに。
 心の奥底ではまだ、あの時のままの私が二人の帰りを待ち続けている。
 もう、二人と過ごした記憶さえ、朧気なのに。

「今回、沙雪さんたち家族と関わらせていただいて、少し"夫婦"という存在を羨ましく思いました。行き違いはありましたが、ああやって互いにその存在を慈しみ合えたなら、きっと、心強いんだろうなと」

(マオはきっと、"ねね"とそうであったのだろうけれど)

 その言葉は飲み込んで、私は「だから」とマオを見据え、

「夫婦になるのなら、"夫婦"を知らない私でも構わないと。共に"夫婦"を築いていくことを許してくれる人となら、"夫婦"になれるのかなと思いました。それと、私にとってあやかしの皆さんは助けてくださった恩人でもあるので、嫌だという感情はありません。答えになりましたでしょうか」

 刹那、バチンッ! と威勢のいい音が轟いた。
 マオだ。自身の頬を挟み込むようにして、両手で頬を打ったのだ。

「え!? マオさん!? なにを――っ」

「戒めだ」

「へ?」

「茉優は俺を殴ってくれないだろ?」

「なぐっ!? しません、そんなこと!」

「な? だから、自分でやる」

 申し訳なかった、と。
 マオは両手を机について、深く頭を下げる。

「幸せになってほしいなんて言いながら、俺は自分のことしか考えないで……! 言いづらいだろう話を、茉優に強いてしまった」

「いえ、頭を上げてください……っ! マオさんは私を気遣ってくださっただけですし、私がこんな、変に真面目に捉えすぎなければよかっただけで」

「俺は、それが嬉しい」

「……え?」

 きょとんとしてしまった私に、マオは苦笑を浮かべ、