刹那、「とまあ」とマオが笑みを作る。
 私のよく知る、からりとした声。

「やましいことは誓ってしないが、正直なところ、下心はあるといったらあるんだけどな。茉優と二人、ひとつ屋根の下で生活できるんだ。なんてこの上ない幸運……じゃなくて、つまり俺にとってはアピールだってし放題ってことだろ? 茉優に俺を旦那にしてもいいかなーと思ってもらえるよう、距離を縮めるまたとないチャンスってな」

「な……っ!? マオさん、それは……っ」

「なあに、心配せずともアピールといったって、ちゃんと茉優の負担にならないよう程度は気を付ける。まずは、茉優にここで心地よく生活してもらう。それと、家政婦派遣サービスの仕事に慣れてもらう。この二つが優先事項だからな」

 ということで、よろしくな。
 そう言って綺麗なウインクをひとつパチリと飛ばすマオに、私は面食らうしかなくて。

 マオの持ちこんだ荷物を、二階に運ぶ。
 マオの部屋は私の隣だった。どうりで、ベッドマットが新しくなっているわけだ。

「いったん、小休止としよう。うまいの持ってきたぜ」

 にっと笑んで掲げられた小箱。どうやらスイーツを持ってきてくれたらしい。
 二人で台所に降りて、マオは小皿とフォークの用意を、私はティーカップを並べ、ポットで紅茶を蒸らす。

 その間に選ぶかと、マオが小箱を開けた。
 収められていたのは、ひとつひとつ透明な小袋に包まれた、カット済みのシフォンケーキが四つ。

 優しい卵色に、うっすら茶色かがったもの。
 チョコレート色のものに、マーブル模様と見た目も可愛らしい。

「鎌倉しふぉんって聞いたことあるか? レンバイ……鎌倉駅東口からすぐの、鎌倉農協連即売所ってとこに入っているんだがな、これがまた幽世でも大人気なもんで、定期的に卸してんだ」

 マオはシフォンケーキをひとつずつ指さし、

「こっちが定番のプレーン、んで、人気の高いロイヤルミルクティー。こっちはチョコレートで、この模様になっているのはコーヒーだ」

 どれにする? と首を傾げるマオを見上げ、

「私が選んでいいんですか?」

「ああ、何個でもどうぞ。全部だって構わないぞ?」

「いえ、さすがにそれは」

 フルフルと首を振ると、マオは「そうか」とおかしそうに笑う。

(優しいな……)