(ま、また車に乗っちゃった……)

 いったい自分はどれだけ学習しないのか。助手席で流れる景色を視界の外に捉えながら、情けなさに苛まれる。
 そんな私の思考をよんだようにして、

「悪いな、これが一番早くて確実な移動手段だったんだ」

(たしかに、来てくれるのがあと数秒遅ければ、私は今頃――)

 回避されたその瞬間が想起され、嫌悪感にぞっと肌が粟立つ。
 平々凡々、可愛げもなければ地味な私がまさか、身の危険を感じるような出来事に巻き込まれるとは思ってもいなかった。

(片原さん、"一年も待った"って言ってた)

 ということは、契約を結んだ時からすでに、今日の計画を立てていたということなのだろうか。
 私を"彼女に"と思うほど好いてくれている様子なんて、全然。いや、ただ私が気付かなかっただけなのかもしれない。
 私はどうにも昔から、恋愛絡みの感情に疎い。

「あの、片原さんは……大丈夫なのでしょうか」

 もしかしたら、私がもっと早くに対応を変えていたら、彼は考えを改めていたのかもしれない。
 そんな小さな罪悪感に訊ねると、運転中の彼は「ん? ああ」と前を向いたまま、

「もう二度とあんな"悪さ"をしないよう、お灸を据えただけだ。具体的にはそうだな、身体や車のボディをちょいと噛まれたり、引っかかれたりってところだな。大怪我にはならないから、心配は無用だぞ」

(それって大怪我にはならなくとも、大ごとではあるんじゃ……!)

「あ! 猫ちゃん、置いて来てしまっています!」

「ん? ああ、あの猫たちはあの辺に住んでる奴らで、俺の飼い猫じゃないぞ」

「そう……なのですか?」

「ああ、"仕事"を済ませたら各々解散するはずだ」

 口振りからして、彼があの場に猫たちを集めたのは間違いなさそうだ。
 おまけに"仕事"まで指示できるなんて……。

(もしかして、ペットショップの店員さんとか、トレーナーさんなのかな)

「猫っていう事をきくものなのですね……」

 感慨深く呟いた私に、

「そうだな、認めた相手には義理堅いところがあるぞ」

 彼はいたずらっ子な視線を私に向ける。

「あの男、俺の嫁に手を出したってのに、かわいい"仕置き"ですんで幸運だったな」

 まただ。彼ははっきりと私を"俺の嫁"と呼ぶ。
 彼は視線を前に戻すと、