「この家については他言無用です。件の"不届き者"にどこから情報が漏れるかわかりませんし、たとえ悪意がないにしろ、興味本位で訪ねてこられても面倒ですから。ここは大旦那様の邸宅であると、お忘れなきよう」

「朱角、伝えるにしてももう少し言い方をだな」

「いえ、平気です。朱角さんの話は要点がはっきりされているので、とても分かりやすいです。いろいろとありがとうございました、朱角さん。このお家についても、しっかり心得ておきます」

「……よろしくお願いいたします」

 お邪魔いたしました、と軽く頭を下げ、朱角さんが部屋を出る。
 マオが「ったく、俺は無視かよ……」と嘆息するのに苦笑を返して、

「私は朝食が終わったら、離れに行ってきます。あちらで生活できるよう、整えてしまいたいので」

「わかった。俺も一緒に行きたいところなんだが、生憎このあと親父の手伝いがあってな。八つ刻には済むだろうから、その頃に合流するな」

「ありがとうございます」

 そうして朝食を済ませた後、私はさっそくとタキさんと共に離れに赴いた。
 タキさんは着物が汚れないようにと、白い割烹着に三角巾を身につけている。
 中途半端だった掃除も済ませてくれたらしい。家の中はすっかり埃がなくなっていて、家電も全て電気が通っている。

 タキさんが一階の窓を開けてくれている間に、二階の自室に向かった。
 動きやすい服装に着替えるためだ。

 扉を開くと、記憶にあるそこよりも整えられた部屋。
 ベッドにはマットレスと布団がひかれ、木製の卓上には、元のマンションでも置いていた写真たてが置かれている。

 久しぶりに顔をあわせるそれを手にして、やっと、ここが自身の住まいになったのだと実感する。
 映っているのは両親と、まだ幼い私。そして記憶よりも皺の少ない、背の曲がっていない祖母。

「話したいことは色々あるんだけれど、また、落ち着いてからね。いい人達に助けてもらえたから、心配しないで」

 写真を戻して、浴衣から着替える。
 服は箪笥とクローゼットに綺麗に収められていた。まさしくお手本のような収納で、勉強になる。

 かわいく結ってもらった髪は、せっかくなのでそのままで。ティーシャツとはちぐはぐだろうが、崩すには勿体ないから。
 二階の窓を開けて、急いで階段を降りる。

「ありがとうございました、タキさん」