「茉優の答えがどうであれ、俺の愛に変わりはないんだがな。だが……言ったろう。茉優には幸せになってほしいんだ。沙雪はあやかしの血が混ざっていた上に、自身とは異なる"人間"を愛してしまったがゆえに苦しんだ。血が異なるとはそういうことだ。子供だって……望むのなら、生まれた子にあやかしの血が混ざるのは避けられない。今回の件で、思うところがあったんじゃないかとな」

「……」

(マオは、本当に私との結婚を考えているんだ)

 これまでの言葉を嘘だと思っていたわけではない。
 いうなれば、私が本気で受けとめてはいなかった。

 だって私は"ねね"じゃないから。

 ほんの数日とはいえ、これだけ一緒に過ごしているのだから、マオも気づいているだろうに。
 それでもまだ、私との結婚を。私の幸せを願ってくれるのは、"ねね"であると信じたいからだろうか。

「……マオさん、私は」

「お食事中のところ失礼します」

 平坦な低い声がして、朱角さんが現れた。
 彼は私の傍らで両膝を畳につけると、

「昨日、茉優様のお引越しが完了いたしました。離れの部屋に運んでありますので、後程ご確認ください」

「もう運んでくださったんですか!?」

「お荷物の箱詰めと荷解きは、女性の世話人のみが触らせていただきました。大きな家電や家具につきましては、事前にご相談させていただきました通り、処分させていただきます。マンションも解約済みですので、これ以降は入れないものとお考えください」

「荷解きまでしてくださったんですね……。お手間をかけまして、すみませんでした」

「いえ、荷物があまりに少なかったので、手間と言われるほど動いてはいません。それと、退職の件ですが、使用されていない有給が多分に残っていましたので、月末までは有給扱いとして頂きました。とはいえ書類上の話ですので、通勤の必要はありませんし、社員からの連絡に応じることも不要です。先方とも話はついていますので、連絡先を削除していただいて構いません」

「……わかりました」

(お世話になりましたって、挨拶もなしに申し訳ないことをしちゃったな)

 せめて、気にかけてくれていた優秀な後輩ちゃんにだけは、挨拶を送っておこうか。
 刹那、朱角さんが「言わずともご承知の上かと存じますが」と目尻を吊り上げ、