「本当にありがとうございました。お二人とも。この御恩は一生忘れません」

「そんな、私は大したことは……! 頭を上げてください」

「なーに言ってんだ、茉優。茉優がいなきゃ、今頃この二人は大修羅場の離婚騒動だったんだぞ」

 そんなこと、と反論しようとした刹那、

「茉優さん」

 沙雪さんが、そっと私の両手を掴み上げる。

「茉優さんにとっては普通のことなのかもしれませんが、私にとって、茉優さんという"人間"の方に秘密を打ち明けられたというのは、長いことせき止めていた川を通したも同然でした。茉優さんが真摯に寄り添ってくださって、背を押してくださったから、二人に向き合おうと思えたのです。……臆病なままだったなら、たとえ呼ばれても、来ることなど出来ませんでした」

「沙雪さん……」

「勇気をくださって、ありがとうございました」

 微笑む沙雪さんの顔は、これまでになく晴れやかで。
 見上げたマオが同意するように頷いてくれたのを見て、私も託してくれた想いを、受け止めようと。

「ありがとうございます、沙雪さん。それと……少し早いですが、お誕生日、おめでとうございます」

「! ありがとうございます。忘れられない誕生日になりました」

 そう言って微笑む沙雪さんの顔は、これまでにないほど幸せに満ち溢れていた。