「出れるか? 足下、気を付けてな」

「なっ……なにしてんの、茉優ちゃん! 知りもしない男でしょ!? 危ないよ! ちょっと強引だったのは謝るから、早く車の中に戻って……!」

「だーから、言ったろ?」

 鞄を抱えるようにして歩き出した私の背を支えるようにして、彼が顔だけで片原さんを振り返る。

「俺は彼女の旦那だって。……人の嫁に無体を働いたんだ、それ相応の報復は受けてもらうからな」

「なっ……!?」

 途端、それまで静かだった猫たちが一斉に咆哮した。
 片原さんの悲鳴が響きわたる。

「片原さ……っ」

「見なくていい」

 振り返ろうとした私の瞼を、大きな手がそっと覆う。

「行こう。話したいことが山ほどある」

 ひどく優しいその声に、私は反射のようにこくりと頷いた。