訊ねる正純さんに、沙雪さんが首を振る。

「いいえ。私はあやかしではない。けれど二人のように、純粋な人間でもない。あやかしの血が流れているのは、自分でもわかるの。昔から冬でも寒さなんて感じないし、雪の降り止みがわかるもの。理屈ではなく感覚で。こんなの……おかしいわ」

 言葉に迷うようにして、正純さんと菜々さんが顔を見合わせる。
 突然あやかしなどと言われて戸惑っているのだろう。無理もない。
 私もそうだったから、よくわかる。

 けれど。沙雪さんがこの告白をするのに、いったいどれほどの勇気を振り絞ったのか。
 この言葉の数々に、どれだけの愛が込められているのか。
 沙雪さんの決意を無駄にしたくないと思えるくらいには、私は"あやかし"を受け入れている。

「あの、私からもいいですか」

 発した私に、正純さんと菜々さんの目が向く。

「私、沙雪さんのご依頼で派遣されてきた、家政婦の白菊茉優と申します。急にあやかしだなんて言われて、混乱されるのもよくわかります。私も、そうでしたから。けれどどうか、沙雪さんの言葉を信じてあげてください。そしてどうか、怯えないでください。私の知るあやかしは皆、優しくて頼りになる方々ばかりです。あやかしでも、人間でも。どちらなのかなんて、その人を形作るひとつの要素でしかないと思っています」

 正純さんと菜々さんが、私と沙雪さんを交互に見る。
 と、正純さんが沙雪さんの両手を握りしめた。

「沙雪、大変なことを話してくれてありがとう。いっぱい悩ませちゃって、本当にごめん」

 今度は菜々さんが沙雪さんの肩を抱き、

「ずっと近くにいたのに、沙雪が苦しんでいるの、気づいてあげられなくてごめんね。沙雪は私が落ち込んでたり悩んでたりしたら、すぐに気づいてくれるのにさ」

「二人とも……信じてくれるの?」