すると、ほどなくして部屋に明かりが灯った。

「そんな……正純さんと菜々さんは、本当に浮気をしてたってことですか」

「……実際に見てみるまでは、まだわからないぞ」

「実際に見るって……部屋の中をですか? そんなこと」

「なあに、俺に任せておけ」

 途端、ボフンとあがった白煙。まさか、と足下へ視線を落とすと、しなやかな白色の猫が現れた。
 尻尾は二本。見慣れてきた、赤い瞳。

「まさか、マオさんがその姿で?」

「ああ、これならちょちょいっといけるし、見つかったとしてもかわいい猫ちゃんですむからな。茉優は二人がベランダに出て来ることを考えて、ちゃんと隠れておくんだぞ」

 んじゃ、行ってくるな。
 さらりと言い置いて、猫姿のマオがマンションに駆けていく。

「ちょ、ちょちょいって……三階ですよ!?」

 猫は身体能力が高いと聞いたことがあるけれど、さすがに壁をよじ登って落ちでもしたら……!

 そんなことを考えている間に、本当に"ちょちょいっと"、マオは器用に目的の部屋まで登っていってしまった。

(猫ってこんなこともできるの? あやかしだから?)

 ともかく、今はマオの頑張りを水の泡にしてはいけない。
 私は急いで周囲を見渡し、窓から死角になりそうな電柱の影にかくれる。

 ベランダの枠に登り立ったマオは、合図するようにして尻尾をひとふり。ベランダの内部へと飛び降りた。
 高い柵が目隠しになっていて、マオの様子は伺えない。

(マオ……!)

 程なくして、手すりにぴょんと白い影。マオだ。
 彼は再び器用に身体を使い地面に降り立つと、駆け足で私の元に戻ってきた。

「マオさん、大丈夫でしたか!?」

「ああ、この通りだ。それで、茉優。頼みがあるんだが、沙雪たちにここにくるよう連絡してくれないか?」

「え……」

 動揺に固まる私の眼前で、ぼふりと白煙があがる。
 人の姿に戻ったマオは、さきほどと変わらず静かな窓を見上げて、

「これは、一気にかたをつけちまったほうがいい」