「マオさん、子供の相手がお上手なんですね」

 帰りの車内。高速道路の流れていく街灯をなんとなしに見遣りながら告げると、マオは「意外だったか?」と面白そうに訊ねてくる。

「いえ、どちらかといえばイメージ通りでした」

「なんだ、ギャップ萌え? ってやつでポイント上がったのかと思ったんだけどな。残念」

 わざとらしく肩を落としてみせるマオに思わず笑みを零すと、彼は私を横目で確認して、頬を引きしめ前を向く。

「明日、俺だけで行ってもいいんだぞ。茉優はあの二人に付き添ってくれれば」

「いえ」

 私は膝上で両手を握り込める。

「沙雪さんに事情を聞きたいと申し出たのは私です。最後まで、責任をもちたいんです」

 真実を突き止めて、それが本当に沙雪さんや風斗くんのためになるのかは、わからない。
 けれどこのままじゃ、沙雪さんはいつまでも今の状態から抜け出せない。

「気付かれなきゃよかったのにな」

「え……?」

「嘘をついているって。知られなければ、少なくともあの二人にとっては"ない"ものだった。知られてしまったから、無視のできない"事実"となってしまった」

「マオさんは、知られなければ良かったと?」

「今回の件は、旦那の目的次第ではあるけれどな。ただ、"嘘をつく"という行為自体の話なら、俺は悪だとは思わない。……この世には、幸せでいるために必要な嘘ってのもあるからな」

 それでも、と。マオは眉間に皺を寄せ、言葉を紡ぐ、

「気付かれちまったら、嘘は嘘にしかならない。理由がなんであれ、相手は裏切られたと感じ、信用を失う。疑念は心を蝕み続けるものだ。それでもその打ちのめされた心で、"嘘"ごと愛することが出来ないのなら、"真実"と向き合うしかないだろうな」

 車内を照らしては駆けていく明かりが、マオの赤い目に光を灯しては消えていく。
 マオは、"幸せでいるために必要な嘘"をつかれたのだろうか、それとも。
 途端、マオは「だがまあ」といつもの笑顔をぱっと咲かせ、

「浮気って点についてなら、俺の場合、死んでもあり得ないからな。安心して俺を好きになってくれて平気だぞ」

「な……っ」

「いや、もう好いてはくれているんだったか? "好きではないということではない"って言ってくれてたもんな」