「依頼内容は、沙雪さんが外出している間の風斗くんの食事補助、遊び相手、寝支度と伺っていますが、変わりはありませんか?」

「はい。お風呂はもう済ませてますので、その内容でお願いできたらと。家のモノは好きにお使いいただいて構いませんし、細かな場所などは風斗に聞いていただければわかりますので」

「おにーさんとおねーさんも、一緒にごはん食べるの?」

「いえ、私達は……」

「ご迷惑でなければ、一緒に食べてあげてください。冷蔵庫にハンバーグをたくさん作っておきましたので、お嫌いでなければ。お米も予約で炊き上がるよう、多めに準備しておきましたので」

「いいのか? 助かるな、茉優」

「すみません、私達のぶんまでご用意いただいてしまって」

「いえ、本当にそれだけですので。すみませんが、汁物などはお願いします」

「ハンバーグ……」

 風斗くんが、ぼそりと呟く。
 沈んだ表情に違和感を覚えた刹那、「あ」と風斗くんが焦った声を上げた。

「クレヨン、はみでちゃった」

「んー? どれどれ、そんなに焦らなくても、クレヨンくらい拭いたら取れるだろう」

 マオが持参した布巾を手にするが、今度は沙雪さんが慌てはじめて、

「いえ、そのクレヨンは油性でして、こすっただけでは取れないんです」

「なんだって?」

「いつもはクレンジングオイルで落としていますので、今お持ちして――」

「あ、大丈夫ですよ」

 私は「ちょっと冷蔵庫、失礼しますね」と台所に向かい、

「机の上でしたら、これで落とせますから」

「これって……牛乳、ですか?」

 不安げな沙雪さんに「はい」と頷いて、折り畳んだキッチンペーパーに、垂れない程度に沁みこませる。

「私も小さい頃、よく床や机にクレヨンをはみ出しちゃっていたんですけれど、そのたびに祖母と拭いてたんです」

 ちょっとごめんね、と戻った食卓で画用紙を退け、牛乳を沁み込ませたキッチンペーパーで軽くこする。
 描かれたいたのが少量だったからか、ほんの数度往復させるだけで、クレヨンは綺麗になくなった。

「とれた……!」

 感動の声を上げる風斗くんに、私は頷いて。