決意に手を握り返すと、なぜか片原さんはポカンとあっけにとられたような顔。
 あれ? と首を傾げると、

「ああー……なるほどね。いや、そんな茉優ちゃんもカワイイんだけどね。そうじゃなくさ」

 ぐいと手を引かれる。
 よろけた私を抱き寄せて、強い指先が私の顎先を掴んだ。

「俺の彼女になってよってコト」

「…………はい?」

「茉優ちゃん、彼氏いないっしょ? これまでいたこともないんだっけ。ならさ、ここらで一回経験的に付き合ってみるのもアリじゃん? 付き合ってるうちにさ、ホントに好きになってくるかもだし」

「あの、片原さん、冗談は……」

「ガチに決まってんじゃん。ねえ、いいでしょ? ちゃーんとがっつかないで、一年も待ったんだし。俺、けっこうマメだし優しいよ? まあ……"肉食"ってヤツではあるけど」

「!」

 背にあったはずの掌が、するりと腰から下に撫で降りていく。

(っ、やだ)

 ぞわりとした感覚は嫌悪のそれ。

「は、放して……っ」

「あーごめんごめん、びっくりさせちゃった? 大丈夫だって、言ったっしょ? 俺、優しいって。こーゆーのはさ、ちゃんと茉優ちゃんの気持ちが乗ってからにするから。今のはちょっとした冗談だって」

「っ、あの、本当に、彼女とか私には無理ですので」

「それって自分は可愛くないからとか、釣り合わないからとかゆー系? ぜーんぜん余裕だって。茉優ちゃん自分で思っている以上に魅力的だし?」

「ええと、だれかとお付き合いとか、考えていなくって」

「んじゃ今から考えたらいいじゃん。俺のこと、別に嫌いじゃないっしょ? 顔も悪くないし、金あるし。めちゃくちゃ条件いいじゃん」

(どうしよう、全然話が伝わらない……!)

 ぐいぐいと迫ってくる身体を必死に押し返そうにも、まったく歯が立たない。
 せめて掴まれている手だけでも振り払ってしまいたいのだけれど、相手はお客様だと思うと躊躇してしまう。

(もしかして、だから壁に近づいて駐車を?)

 私が、逃げだせないように。
 気づいた時には私は助手席のシートに背を押し付けられていて、瞳をぎらつかせた顔が迫ってくる。