今は白いカーテンがひかれているけれど、周囲がガラス張りになっているので、ここでお茶をしたら優雅な時を過ごせそう。

 二階には個人の部屋として洋室が二つに、衣裳部屋と物置。
 トイレと簡単な洗面もついている。

「……離れというより、お庭にあるもう一つのお家ですね。それと……この部屋は、もしかして女性が使われていました?」

 二階の個人部屋のひとつに置かれた、鏡台に箪笥とベッド。
 どれも隣の部屋と比べ、女性的な印象を抱かせる。

「お、敏いな茉優。まあ、隠していたわけではないんだが」

 マオは部屋に置かれた箪笥を撫で、

「ここは昔、親父の奥方がよく使ってたんだ。人間だったもんでな、来客があった際の避難場所にもなってたな」

「おく、がた様って……狸絆さん、人間の奥さんいらっしゃったんですか!?」

「ああ、三十年ほど前に亡くなったがな。それもあって、ウチの連中は人間に友好的なやつらが多い」

(だからタキさん、"えらく久しぶりにお嬢様を着飾れる"って……。狸絆さんの奥さんのことだったんだ)

「そんな大切な場所、とても使わせていただくわけには……っ」

「んー、だが誰も使わないのなら、このまま朽ちていくだけだからなあ。俺達は皆、本邸で事足りてしまうだろ? わざと人をいれずにいたわけでもないんだ」

「……」

(確かに、"家は人が住まないとダメになる"なんていうけれど)

「俺が買い集めていた服もそうだが、使ってもらえるのならそれに越したことはないんだ。俺達だって、なにも聖人君主じゃないからな。嫌だと思うモノならば、はじめから触れさせない。だから茉優は、茉優の気持ちで選んでくれていいんだ」

 はじめから、触れさせない。
 その言葉にドキリとしてしまったのは、"ねね"について尋ねてもいいか、迷っているから。
 生まれ変わり、猫から猫又になってまで探し続けた愛おしい人なのに。
 私の記憶がないと知ってから、彼はほとんど彼女の話をしない。

『俺はずっと、キミを幸せにしたかった』

 あの言葉を、眼差しを。
 惜しみない愛を向けたかったのは、"ねね"だろうに。

(マオにとって、"ねね"のことははじめから触れさせたくない人なのかも)

「茉優? やはりここは荷が重いか?」

「え? あ、あと……そう、ですね。ですが……」