水の音がすると思ったら、池があるらしい。覗きこむと、立派な体躯の鯉が数匹、ゆったりと尾を揺らし泳いでいる。
 黒い水面に映る月。満月になるまで、もう数日といったところだろうか。

「朱角のこと、すまないな。茉優が悪いってんじゃなくて、アイツは、人間を嫌っているんだ」

「……それは、私が聞いてしまっても平気はお話でしょうか。朱角さんにとって、その、あまり触れられたくない内容なのではないかと……」

「問題ない。隠しているわけでもないし、この屋敷の者は皆、心得ていることだ。……これから生活を共にするからな。茉優も、知っておいたほうがいいと思う」

 アイツは半妖なんだ、と。
 池の水面で、マオの姿がゆらめく。

「アイツの父親は牛鬼ってあやかしで、母親が人間だった。半妖といっても、人間に寄るもの、あやかしに近いものと、色々あってな。朱角はあやかしの血の方が濃かったんだが、そのせいで随分と人間から虐げられたんだ」

 マオは優しい声で続ける。

「父親はとっくに姿をくらませていて、どこにいるともわからない。頼みの母親も、初めこそ可愛がっていたそうだが、物心ついた時には別に男を作っていたらしい。疎まれ、虐げられ、いいように使われて。恨みと憎しみを募らせ、あとほんの僅かでもそこにいたら殺してしまいそうになっていたところを、親父が拾ってきたんだ。俺が拾われる、少し前の話だな」

「そんな……っ」

 あまりの壮絶な過去に絶句していると、マオは「まあ、珍しくもない話なんだがな」と肩をすくめ、

「人間とあやかし。双方の血を持つってのは、つまるところどちらにとっても異質だということだ。どちらにもなれない。茉優がこれから"仕事"にいく先で出会うのも、多少の差はあれど、そうした葛藤を抱いている奴らになる。だからといって、無関係な他者を攻撃していい理由にはならないけどな。朱角のは極端すぎるとも思うが、その心づもりだけはしておいてくれるか? 朱角のことは、出来るだけ茉優に近づけさせないように、俺も気を配っておく」

 告げるマオの顔は真剣で、その姿に、彼に家を継がせたいと言った狸絆さんを思い起こす。
 私は「大丈夫です」と首を振って、