バクバクと跳ねる心臓と戦いながら、やっとのことで辿りついた座敷には、楕円型をしたこれまた一枚板の座卓が。
 すでに席についていた大旦那様は、私の見るなり「よく似合っているね」と双眸を細め、

「牡丹に蝶か。さすがはタキだね」

 さ、座って座ってと勧められるまま並んで座らせてもらった途端、朱角さんをはじめとする数名の方々が、高級旅館さながらの美しくておいしいご飯を運んで来てくれた。

(居候の身で、どう考えても尽くしてもらいすぎ)

 私もお手伝いを、と申し出てみたけれど、今夜は歓迎会だからと断られてしまって。
 手を出せなくなってしまったからと、目の前の食事を堪能するに徹しているわけだけれども。

(……"嫁"、だったら。こんなモヤモヤした居心地の悪さなんてなかったのかな)

 ちらりと隣のマオを盗みみると、当然のように気が付いた彼が「ん?」と柔らかく笑んでくれる。

「退屈か? 茉優」

「いいいいいえまさか!! お料理、本当においしいです! 食べ過ぎてしまいそうで!」

「はは、そりゃよかった。茉優の口に合うか、厨房の連中も気にしてたしな。腹いっぱい食べてくれたら喜ぶと思うぞ。ちなみにどれが一等好きだった?」

「あと、このバーニャカウダが……。鎌倉野菜はあまり馴染みがなかったのですが、お野菜のみずみずしさにとてもよく合っていて、すごく、好きです」

 刹那、マオが片手で顔を覆った。
 そのまま天井を向いてしまった理由がよくわからず、私は慌てて、

「マオさん? ワサビが鼻にきたんですか!?」

 マオのお茶を急いで手渡すと、マオは「いや……ちとワサビとは別のもんが沁みてだな……」と、指先で目元を揉んでいる。
 よくわからないけれど、お茶は飲んでいるから、これで落ち着いてくれればいいのだけれど。

「まったく、誘導尋問とはいただけないね。マオ」

 クツクツとおかしそうに笑いながら盃を傾ける狸絆さんに、「誘導尋問、ですか?」と首を傾げる。
 と、狸絆さんはやっぱり楽し気に喉を鳴らしながら、

「茉優さん、海鮮も美味しそうにしてくれていたけれど、お刺身とお寿司ならどっちが好きだい?」