なんだかポカンとしている間に、二人の間で話がついてしまった。

「行こうか、茉優」

 マオに手を引かれ、私ははっとタキさんを振り返る。

「ありがとうございました」

 浴衣を着たのは、それこそ随分と昔に、おばあちゃんに着せてもらった以来で。
 微笑んでくれたタキさんに、おばあちゃんの顔が重なって見えた。
 懐かしい胸のあたたかさを噛みしめていたのも、つかの間。

(って、マオさん、手……!)

 いや、これはエスコートをしてくれているだけのそれだと、理解してはいるのだけれど。

「あ、あの、マオさん」

「ん?」

 振り向く顔は歓喜に見溢れていて、私はうっと言葉を飲み込む。

「あ……と、浴衣! その、こんなに素敵なモノ、貸していただいてしまって、すみません」

「なんで謝るんだ? 俺が好き勝手に選んじまったモノだってのに、着てくれてありがとうな茉優。にしても"貸す"って、それは茉優のモンだってタキから聞かなかったか?」

「いえ、タキさんからも教えて頂いたのですが、その……。私が受け取るには、申し訳なくて」

「なぜだ?」

「私には上等すぎるモノですし……マオさんが好いてくださっていた前世の記憶もなければ、今も、嫁入りの件については断ってしまっていますから」

 鉛を吐き出すような心地で、重い口を動かす。
 けれどマオは「なんだ、そんなことか」とあっけらかんとして、

「なにも別に、茉優の記憶の有無だとか、嫁入りをしてくれるからと選んだわけじゃないぞ。いうなれば、そうだな。いつか必ず会えるだろうと、お守りのようなものでもあったんだ。今はこうして会えたわけだし、茉優がいらないと言うのなら、全て処分したって構わないぞ?」

「え!? 処分だなんて、絶対駄目です!」

「だが、俺が着るわけにもいかないからなあ。使わないものを箪笥にしまい続けていても、邪魔になるだけだろ?」

「それは……」

 マオの様子からして、私がいらないといえば本当に捨ててしまうのだろう。

(それなら……)

「ありがたく、頂戴します」

「ああ、気兼ねなく使ってやってくれ」

 押し負けた、というやつなのだろう。
 マオはにっこにこと明らかな上機嫌で、私の手を引いていく。

(……いい人、だな)

 人ではなく、あやかしだけれども。