(朱角さんは、なんのあやかしなんだろ……)

 雰囲気からして、狸絆さんやマオとは違う気がする。
 かといって尋ねられるような立場ではないのは、重々承知している。

「それじゃあ、ひとまずまとまった所で、タキに部屋まで案内してもらおうか。明日以降もその部屋を使ってもらっても構わないし、庭の奥に離れがあるから、茉優さんが生活しやすい方を選んでくれれば。ま、そちらは明日かな」

 タキ、と。狸絆さんが名を呼ぶと、ほどなくして「お話はおすみでしょうか」と襖が開かれた。

「茉優さん、ウチで過ごしてもらうことになったから。後を頼めるかい」

「承知いたしました。茉優様、お部屋へご案内いたします」

 よろしくお願いします、と立ち上がってから、私はあれ? と振り返る。

(マオは来ないんだ……)

 そんな不安が顔に出ていたのか、マオは二カリと笑んで、

「俺はちょっと親父と話をしてから会いに行くな。長時間のドライブからの挨拶で緊張させっぱなしにしちまったし、ひと休みしてくれ」

「あ……、はい。ありがとうございます」

 会いに、来てくれる。
 その言葉にいいようのない安堵を覚えながら、私は「失礼します」と頭を下げ、タキさんと共に部屋を出た。