「いや、どうみてもみえねえよ」と反論するマオに、「もっと芸術的感性を養ったらどうだ」と言い返している。
 そんな二人を「はいはい、話を進めるよ」と手を叩いて遮ったのは、狸絆さん。

「そこにある通り、あやかしの血族向けの家政婦派遣サービスを立ち上げようと考えていてね。というのも、仕事柄顔が広いもんで、時折お客さんの相談に乗ったりもしているのだけれど……。少し前からね、あやかしを血筋に持つものの、ほとんど人としての生活をしている者たちからの相談が、増えていてね。マオにも覚えがあるだろう? ほとんど"ヒト"の、けれどもあやかしの血から完全には逃れ切れていない、彼らを」

「……まあな。今の現代じゃあ、あやかしなんて書物にしか残らない伝奇だしな。血筋だなんて告げるほうが、なにかと面倒なもんだ。それに、大抵は妖力などほとんど持たないだろう? けれども通常の"ヒト"とは、少々異なる。どちらにも染まれないってのは、苦しいもんだ」

「そう。だからこそ私に、不安を吐露してくれるのだろうけれどね。私は現世での生活のほうが長いから。私もね、力になってあげたいのだけれど。やっぱり私の本質は"あやかし"だから、彼らの苦悩を正しく理解することは出来ないんだ。そこで、茉優さんだ」

「私、ですか?」

「言ったろう、彼らはほとんどヒトといって差し支えないし、ヒトとして生活をしている。私などよりもよっぽど、茉優さんのほうが寄り添えると思うんだ。ああ、マオも同行させるから、あやかし的な部分に関してはそちらに任せてしまっていいよ。でね、相談サービスと銘打っては利用をためらう層もいるから、家事代行サービスの家政婦さん。もちろん、相談事などなければ、依頼内容の家事だけこなしてくれればいいから」

 ぺらりと表紙を捲ってみると、狸絆さんの話した内容が独特な絵と共に記載されている。
 依頼を受けるのは狸絆さんで、私は指示された日時に指定の場所へ向かい、依頼人の家事代行および相談を受けるという流れらしい。