「ウチに来てくれたなら、この家の全員で茉優さんを守ってあげられる。特にマオと居住区を共にしていれば、万が一あの男に見つかったとしても、いい牽制になるだろうしね。茉優さんがうまいことマオやウチを気に入ってくれれば、嫁入りの可能性が高まるわけだし、勢いで婚姻を結んで後から苦労するよりは、先に見切りをつけてもらったほうが、互いにとっても傷が少ないと思うんだ」

 優しい微笑みに、ぐらりと気持ちが傾く。
 あの人のところに一人で行くなんて、絶対にしたくはない。けれどこのまま突っぱねていては、良くて減給。最悪、自主退職を勧められるだろう。

「あの下種野郎、手加減なんてしてやるんじゃなかったな。茉優。今は嫁とかはいいから、身の安全を考えてウチに来ないか? 茉優が何かされたらなんて、考えるだけで今すぐアイツを縛り上げてやりたくなる」

 低い声に思わず「だ、駄目ですよマオさん!」とその手を掴むと、マオは「わかってるさ。今動いちまったら、茉優が疑われちまうだろうしな」と爽やかに言う。
 笑んでいるようで笑んでいない目元。

(あ、本気なんだ)

 悟った私は、それだけ自分がいま危険な状況にあるのだと実感する。

(この話を断っても、マオはきっと自主的に私を守ろうとしてくれるんだろうな)

 まだ出会ってほんの数時間だというのに、なぜかそう確信してしまえる。
 と、マオが「茉優」と悲し気な面持ちで私の手を握り返し、

「俺達はもう、茉優が傷ついたら、悲しいぞ」

「っ!」

 じんわりと、心に想いが染み渡る。
 この話に乗っても、断っても。どちらにしろ、迷惑をかけることに変わりないのなら――。

「ご迷惑を、おかけしてもよろしいでしょうか」

 私は深々と頭を下げて、

「お手伝いできることは何でも命じてください。ご厄介になっている間の費用も、必ず、お支払いしますので――」

「金なんて必要ないぞ、茉優。もちろん、手伝いだってしなくていいんだ。茉優にここにいてほしいっていう、俺の、俺達の我儘なんだから」

「ですが、なにもせずただご厄介になるわけには」

「――つまり、"仕事"があればいいということだね?」

 にっこりと。狸絆さんの今日一番の笑みに、私とマオはちらりと視線を合わせる。
 次いでマオは盛大なため息と共に肩を落とすと、恨めし気な目を狸絆さんに向け、