「……っ」

 おびただしい連絡の数々に、思わず言葉を失う。
 片原さんからの着信と、メッセージが数十着。それから上司からの着信と、届いているメッセージを震える指で開いた。
 並んでいるのは叱咤の嵐と、片原さんからの"和解"条件。

「ま、茉優、どうした? 顔色が悪いぞ」

「あ……すみま、せ」

「謝罪に来いって、言われているでしょう? おそらくは、その不届き者の家に、一人でって」

「! どうして、それを……!」

 狸絆さんの指摘通り、上司からのメッセージにはすぐに謝罪に行けと指示が来ていた。
 絶対に一人で、あの人の家に。誠心誠意の謝罪をすれば、一方的にどなりつけて勝手に帰宅するという、無礼な態度は水に流すと。

(そんなこと、してないのに)

 けれど片原さんが上司にそう告げたのなら、もはやそれが"真実"となっているのだろう。

(どうしよう、私から事情を説明したところで、聞いてもらえるとは思えないし……)

 聞いてもらったところで、「ちょっと我慢すればいいだけでしょう」と。
 結局は、あの人の家に行くことになるだろう。

「年の功、というには長く生き過ぎているけれど、まあ、どの時代も似た手口を思いつくものだねえ」

 狸絆さんは皮肉げに目尻を吊り上げ、

「やり口からして相当ねちっこい男のようだったからね。行けば今度こそ、その身が危ないだろうね。かといってこのまま放っておけば、茉優さんは責任を取らされるだろうし、あの男だって、行動をエスカレートさせてくる可能性が高いだろう? 会社への嫌がらせに、自宅付近での待ち伏せ。どころか一方的に想いと憎悪を募らせて、刃傷沙汰なんてのも否定できないねえ」

「……っ」

 恐怖にひゅっ、と喉を鳴らした私に、マオが慌てて「茉優、ゆっくり息を吸うんだ」と背を支えてくれる。
 それから「親父!」と鋭い目つきを狸絆さんに向け、

「茉優を怖がらせるんじゃねえ!」

「私だって、なにも好きで怖がらせているわけではないさ。大なり小なり、このまま茉優さんが傷つけられる様を黙って見過ごせないって話だよ。だから、ね」

 狸絆さんがコツリと指先で机上を鳴らす。