「私は、七歳の時に両親を事故で亡くしました。それからは祖母が育ててくれたのですが、その祖母も、十年前に。祖父は私が生まれる前に亡くなっていましたし、父方の祖父母はいないと言われていたので、今の私には、家族と呼べる人はいません。なので皆さまがあやかしだということは、誰にも話しませんので、ご安心ください」

「……そうだったのか。だから家族は大切にしたほうがいいって、一緒に来てくれたんだな」

 そっと、私の掌にマオの手が重なる。

「俺達のことは、誰に話してもいいし、話さなくてもいい。……こうして出会えるまで茉優を支えてくれた人たちに、感謝しないとだな。茉優も、頑張ってくれて、ありがとう」

「っ、いえ」

 私に両親が、家族がいないと聞いた人たちは、「可愛そうに」「大変だったでしょう」と憐んだ眼差しを向けてきたものだけれど。
 マオは、マオだけが。皆に感謝をしなきゃって。頑張ってくれてありがとう、って。
 私の家族を慈しんでくれた。
 私を、"可哀想な子"にしないでくれた。

「茉優が嫌じゃなければ、墓を参らせてくれないか? すぐにではなくていいから」

「あ……はい、マオさんさえ、よければ」

(……どうしよう)

 重ねられた掌が、嬉しくて、心強い。

「話してくれてありがとう、茉優さん。……家族の話ということで、私からもいいかな」

 狸絆さんは居住まいを正し、

「さっき『つづみ商店』の店主だって言ったけれど、私たちは現世《うつしよ》の品を幽世《かくりよ》に、幽世の品を現世の必要としている者に売るという商人でね。マオにも、随分前から携わってもらっている。ゆくゆくは、私の跡を継いでほしいと考えているのだけれど……。茉優さんには、どうかうちに嫁入りをしていただきたくて」

 嫁入り。構えていた言葉に、背筋が伸びる。
 狸絆さんはそんな私の緊張を悟ったように、目尻を和らげ、

「私の我儘なのは重々承知しているのだけれどね。けれど私はこの家の主だから、他の者たちも気にかけてしまうんだ。茉優さんからしたら、見知らぬあやかしの世界ゆえ苦労をかけるだろう。それでも、どうか二人で。互いに支え合いながら、この家の者たちを守っていってくれたらなら、こんなに嬉しいことはないと願ってしまうんだ」