「騒々しくて申し訳ないね、茉優さん。仕切り直しといこうか」

 人の姿に戻った狸絆さんが、タキさんに用意してもらった緑茶をひとつすすりながら笑む。
 私の隣には、同じく人の姿に戻ったマオ。

 タキさんはこの家で一番の年長者で、狸絆さんの乳母だったらしい。
 なので未だに二人揃って、頭が上がらないのだという。

 やっとのことで話し合いの場を整えた私達は、マオに任せる形で、これまでの経緯を話した。
 私には前世の記憶がないこと、それでも夢で繋がったこと。
 仕事で危なかったところを助けられて、そのお礼も兼ねて、事情を説明に来たこと。

「待望の"嫁"だともてなして頂いたにも関わらず、ご期待に添えず、申し訳ありません。私にとっては、なにもかもが急な話でして……。マオさんと、婚姻を結ぶつもりはありません」

「……前世の記憶がないのだから、仕方のないことだろうね。マオは、受け入れたのかい?」

「受け入れるもなにも、事実は変えようがないだろ。それに、会えただけでも御の字だ。これからじっくり俺を知ってもらって、俺は今の茉優を知って。茉優が俺に惚れてくれてから、もう一度求婚すればいい。だったのに……親父のせいで、何段もすっとばしちまった」

「ふむ。けれどやはり、私達の素性については最初にお伝えしておくべきだと思うけれどね。種族が違うというのは、共に生きるにはあまりに重大な懸念事項だろう」

「それは……そう、だな。すまなかった、茉優。騙そうとしたわけではないんだ。ただその……あやかしだなんて言ったら、俺を知ってもらう時間さえもらえずに拒絶されるんじゃないかって……。それ自体が、俺の独りよがりだったな」

 それこそ猫耳があったのならしょぼんと垂れているだろう表情に、私は苦笑して首を振る。
 マオさんは表情豊かだし、感情に、素直だ。

「騙されたなんて思っていませんから、謝らないでください。"普通"と違うことを伝るのに慎重になる気持ちは、私も、分かるつもりです」

 ここまで真摯に扱ってくれるのだから、私も誠意を尽くすべきだろう。
 折り畳んだ膝上に乗せた両手に、ぐっと力を込め、