「事情持ちの息子のためにも、好意を持っていただくためのスキンシップだよ。私ってば、なんて出来た父親なんだ」

「自分でいうな! それに、だとしても順序ってものが……!」

(ど、どうしよう)

 余裕綽々の狸と、毛を逆立てた猫。
 二人の言い合いを止めるにも、うまい言葉がまったく見当たらない。

(いっそ二人同時に撫でさせてもらうとか? ううん、それはマオが納得してなそうだし……)

 あやかし同士の対立、というよりは、動物園のふれあい広場を彷彿させる二匹の攻防。
 うっかり和んでいる場合じゃない。
 大切な話をさせてもらうためにも、二人をとめなくては。

(でも、どうやって……)

 瞬間、スパン! と勢い良く、私側の襖が開いた。
 顔を跳ね向けると、立っていたのはなんとも姿勢の良い、タキさんで。

「いい加減、お茶をお出しして良いものかお伺いに参りましたら……。大旦那様、坊っちゃま、お二人ともそのようなお姿で、いったいどのような要件ですか」

 ピタリと静止した二匹の空気が、一気に冷えていく。

「悪いことをしたね、タキ。私としたことが、声をかけるのをすっかり忘れていたよ。それでこれはだね、茉優さんに私たちあやかしを好いてもらおうと、ちょっとしたスキンシップをはかろうとしてだね」

「俺は悪くないぞ! 俺だって撫でてもらうだなんてしてないのに、先に親父がなんて許せないって純粋な男心で……っ」

「お二人とも、言い訳は無用にございます」

 ぴしゃりと言い放ったタキさんに、二匹がぴっと尻尾を立てて硬直する。
 タキさんはそんな二人を目だけで見下ろして、

「互いの欲を先行して、もてなすべき茉優様を困らせるなど言語道断! お二人とも、そこにお直りなさいませ!」