ドキリと心臓が強く跳ねたのは、確かによく似合っているというのもあるけれど、それよりも。
 その姿が、夢の中で見た彼と同じだったから。

(本当に、あの夢で"繋がった"のは、マオだったんだ……)

 マオはつかつかと私の隣まで歩を進めてくると、右肩をぐいと引いて私を引き寄せる。

「マ、マオさん!?」

(顔が、胸元が、近い……っ!!)

「良い毛並みを撫でたいってなら、あんなタヌキ親父じゃなくて俺にしてくれ」

「へ!?」

(だから、近いんですって……!)

 間近で懇願するように眉を八の字にされると、きらきらオーラ―で圧倒されてしまう。
 二十五年間生きて来て、面食いなつもりはなかったけれど……。いや、たぶん、マオがあまりに規格外なのだろう。
 マオはあわあわと固まるだけの私ににこりと笑むと、今度は鋭い目つきで狸になった狸絆さんを睨む。

「俺が言う前にあやかしだって伝えちまうなんて。もっと距離を縮めてから告げようと思ってたのに、台無しじゃないか」

「おや、大事なことは先に伝えるべきじゃないかい? それも、夫婦として今後を共にすると誓った仲ならば余計に」

「事情が変わったんだ。どうせ、茉優の話なんて聞かずにホイホイ進めようとしていたんだろ」

 マオは私と狸絆さんの間に割り込むようにして、着席する。
 やっとのことで離れた距離にほっとしたのもつかの間、彼は当然のように私の右手をぎゅっと握りしめてきた。

 マオさん、と声をかけそうになったのを、喉元で押しとどめる。
 なぜなら狸絆さんを向くその横顔は真剣で、狸絆さんもまた、つぶらな黒目で見極めるようにして、マオを見上げていたから。

「それは、茉優さんは嫁にはならないということかな?」

「いや、嫁には、なる。じゃない、"なってほしい"だ。俺はこれまでもこれからも、嫁は茉優しか考えられない。けど、茉優にはちゃんと、自分で決めてほしいと思っている。前世の記憶がなくても、時間がかかってもいいから、俺を好いてほしい」

 ぐっと、力を込められた掌。マオが私へと視線を移した。
 赤い瞳が、まっすぐに私の姿を閉じ込める。
 その眼差しの強さと掌の熱さに、マオの切実な願いが込められている気がした。

「マオさん……」