だって見た目こそもふもふな狸だけれども、これは紛れもなく、ロマンスグレーなマオの養父であるあの狸絆さんなのだから。

「あ、あやかしといっても、姿は本当に狸さんなんですね」

「ん? ああ、実を言うと別の姿もあるのだけれどね。まあ、現世《うつしよ》には向かないもんで、こちらで。私があやかしだという証明にはなったでしょう?」

「は、はい……! ありがとうございました。私のために、お手間をかけていただいて……」

「怖くはないかい?」

 訊ねられて、あ、と今更に思う。
 そうだった、愛らしい姿に気を取られていたけれど、そもそもは狸絆さんたちがあやかしだって話だった。
 自身の心を探るようにして、狸になった狸絆さんを真剣に見つめる。けど。

(な、なんだかもふーんっていう幻聴が聞こえるような……っ)

 怖くない。むしろ、可愛い。
 そしてもふもふが、もふもふが……っ!

「よかったら、撫でてみるかい?」

「え!? いいえそんな、恐れ多いことなど……!」

「元が元だから、本物の野生の狸と違って、感染症の心配もないからね。毛並みもこんなに美しいし、ほら、このしっぽなんて触ったらとても柔らかいと思わないかい?」

 ふりふりと振られる、もっふりとふくらんだしっぽ。
 気付けば狸絆さんはとてとてと私の横まで歩いてきて、ちょこんと背を向けておすわりをしてみせた。
 私を見上げるようにして、顔だけで振り返り、

「それとも、私では撫でるに値しないかな……?」

 まん丸なうるうるとした黒い目に見つめられてしまっては、もう、もう……!

「し、失礼させていただきます……っ!」

「うんうん、どうぞ」

 嬉し気に伸ばされた背中に、私はごくりと喉を鳴らして手を伸ばす。
 その時だった。スパン! と音を立て、襖が開かれる。

「仲良くしてくれんのはありがたいけどな、俺を差し置いて一気に距離を詰めすぎじゃないか?」

「! マオさん……っ!」

「待たせたな、茉優。どうだ? 色男だろ」

 にっと口角を吊り上げてみせるマオは、その髪と同じ白色の着物に藤色の羽織を羽織っている。