「それで、式は神前式、教会式、仏前式のどれがお好みかな? ゲストハウスやリゾートスタイルってのも素敵だねえ。今は様々な形があって面白いのなんの。ああ、費用は私がもつから、どーんとやってくださいな。ただちょっと、参列者には口出しさせてもらわないといけないのだけは、勘弁してくれるかな」

「式って、あの、そんな」

「家族になるんだ、遠慮は無用だよ。あの子の悲願が成就するのを、私をはじめとするこの家の者がみんな待ち望んでいたんだ。あ、その前に茉優さんのご両親にもご挨拶しないとだよね。うっかり、うっかり。確認しておきたいのだけれど、茉優さんのご両親には、私どもの素性は隠しておくかい? 少し前ならばともかく、今の時代にあやかしは馴染みがないものねえ」

「…………あやかし?」

 言われた通り、馴染みのない単語を確かめるようにして繰り返す。
 と、狸絆さんは「ええ」ときょとんとして、

「私どもはあやかし。私は化け狸、『つづみ商店』の店主です。あの子から、聞いてないかい?」

「…………」

 あやかし。化け狸。
 これまでの人生で人から言われたことのないような言葉に、思考がフリーズする。

(もしかして、からかわれているとか……?)

 でも、眼前の狸絆さんからはそんな雰囲気は感じ取れないし……。

「もしかして、はじめて知ったのかな?」

 私の反応から悟ったのだろう。
 気遣うように小首を傾げて訊ねてくる狸絆さんに、私は少しだけ躊躇してから、

「はい……。あの、大変失礼なことは承知しているのですが、その……本当の、話なんですよね?」

 僅かな可能性にかけて、ちらりと上目で伺いながら訊ねる。
 狸絆さんは「そうだねえ」と朗らかに頷いて、

「論より証拠、かな」

「へ?」

 途端、ぼぶんと白煙が立ち上がったかと思うと、狸絆さんの姿が消えた。
 違う、消えてなどいない。
 白煙の中から「よいしょ」と声がしたかと思うと、薄れゆく靄の中、机に前脚を乗せた獣――狸があられた。

「ほらね、かわいいでしょう?」

 ふんふんと黒くとがった鼻をひくつかせる、狸絆さんと同じ髪色のもっふりとした狸。
 絶妙なカーブを描いた小さな耳が、可愛さをアピールするようにぴこぴこと動く。

(か、かわいい……!)

 もふりたい。そんな衝動が湧き上がってくるのを、ぐっと耐える。