その人は変わらずにこにこと優し気な笑みを浮かべていて、けして、正解を求めているわけではないのだと分かる。

(大旦那様が来られるまでひとりだからって、気を遣ってくれたのかな……)

 タキさんといい、ここの人たちは優しい。
 肩の力が抜けるのを感じながら、私は「そう、ですね……」と口を開いた。

 白は白でも、夢で見たあの花とは、まったく違う花。
 よくよく見れば目の前の白い花は茎ではなく、細い枝から垂れ下がり弧を描いている。
 根本から穂先にかけて、徐々に小さくなっていく蝶々に似た花弁。
 弓なりに弧を描くその姿には、見覚えがある。けれど。

「……藤、のように見えますが、その……色が」

「うんうん、そう。正解。これは白藤といってね。花言葉は歓迎、恋に酔う。それから……決して離れない。あの子とあなたに、似合いの花でしょう?」

「っ!」

 にこりと優美に笑んで、その人が花瓶の位置を整える。

(あの子、って)

 聞くまでもない、マオのことだ。
 なら、この人はまさか――。

(私の待っていた"大旦那様"!?)

「ご挨拶が遅れまして、申し訳ありませんでした……!」

 私は即座に低頭し、急いで名を告げる。すると、

「おや、怒らないんだね」

「……え?」

 穏やかな声の顔を上げると、その人は楽し気な顔で対面の席に膝を折って、

「あなたを一人にして、わざと名乗らずに"勘違い"させるような態度で接して。無礼だと怒って当然だろうに、あなたが謝ってしまった」

「す、すみません……」

「ほら、また。あなたが謝るべきことなど、なにひとつありゃしないのに。……なるほど。あの子が唯一無二の"嫁"だと、探し回るわけだ」

 その人の黒い目が、成長した幼子を見るように細む。

「あの子の養父の、狸絆《りはん》です。正直なところ、見つかるとは思ってもいなかったんだけれどね。探し始めて百年ちょっとで巡り合わせてくれるのなら、神も捨てたものではないかな」

(百年ちょっと……?)

 それは、前世の私達が生きていたのが百年前という意味だろうか。

(でも、いま"探し始めて"って……)