しばらくすれば、お化粧をしたままのお母さんが起こしにきてくれて、お祖母ちゃんと朝ご飯を並べてくれていたお父さんが「おはよう」って、ちょっと申し訳なさそうに微笑んでくれる。
 その日も、同じなのだと。

「――白菊さん! 白菊さん、起きてる!?」

 待ち望んだ車のエンジン音ではなく、激しくドアを叩く女性の声にぱちりと目を開く。
 この声はたしか、斜め前のおばさんだ。もっと小さかった時から、何度もお菓子をもらったことがある。

 ただならぬ様子に、私も起き上がって玄関に向かった。
 朝ご飯の支度をしてくれていたのだろう。エプロンをつけたお祖母ちゃんが扉を開くと、おばさんは見たこともないような青白さで、

「茉優ちゃん、やっぱり来てたのね……!」

 まるでいてほしくはなかったかのような口調で、おばさんはお祖母ちゃんに視線を移す、

「あのね、落ち着いて聞いてね。さっき、公園の角で事故があったみたいなのよ。いま、救急車を待っているみたいなんだけれど、それでその、その、事故にあった車がね……」

(まさか)

 予感に、駆け出した。
 驚くお祖母ちゃんとおばさんの間をすり抜け、裸足のまま全力で走る。
 後ろから何度も名前を呼ぶ声がしたけれど、聞こえているようで聞こえてはいなかった。

 心臓がばくばくとうるさい。
 そんなはずない、足を汚してって、あとで叱られちゃうなんて考えながらも、振り切れない恐怖が襲ってくる。

(おとうさん、おかあさん……!)

 足が止まる。よく遊びに行く公園のブランコの向こう側で、たくさんの人と、飛び交う怒号。
 大きなトラックと、ブロック塀の間に挟まり潰れていた一台の車。
 間違いなく、私が帰りを待っていた車だった。

 あれから私はお祖母ちゃん引き取られ、たくさんの人に可愛がってもらいながら、大きくなったのだけれど。
 いまだに長時間誰かの帰りを待つのは、苦手なままだ。

(待ってくれているのなら、ちゃんと、帰ってあげたい)

 私は鞄を抱きしめ、意識的に顔を上げた。
 マオの横顔を見つめる。

「"嫁"ではなくとも、よろしいのであれば。ご迷惑でなければ、私もご一緒させてください」

「茉優……!」

 感激しようにして瞳を輝かせたマオが、はっと前を向く。何度も私に指摘されているからだろう。