「ああ……って、住所、まだ入ってないぞ?」

「私の家ではなく、北鎌倉の……マオさんの、お家です」

「! 茉優、それって……また俺の嫁になってくれるってことか!?」

「ちがっ! そこまでは……って、顔! 前見ないと!!」

「大丈夫だ! 見えている!」

「私からは見えているようにみえませんっ!」

 そうか? と少しばかり不満そうにして、マオがやっとのことで前を向く。
 私はほっと息を吐きだしてから、「ええとですね」と打ち明けた。

「前世の話はやっぱり、ちょっとまだ、消化不足といいますか……。信じられない気持ちと、納得してしまっている部分が混ざっている状態でして……正直、混乱しています。ですのでマオさんのお、お嫁さんになるとかは、お約束できません。すみません」

 ぺこりと頭を一度下げ、私は言葉を続ける。

「とはいえ確かに私は、夢でマオさんと出会ってます。それこそ子供の頃から何度も、何度も。だからきっと、無関係ではないのだと思うんです。その夢があったから、マオさんは私を探してくださった。だから、助かったのです。そのお礼……といいますか、マオさんのお父様にも、ちゃんと私を見て頂いて、事情を把握して頂いたほうがいいのではないかと……思いまして……」

 だんだん下がっていく視線。
 けれど最後まで伝えなければと、私は必死に口を動かす。

「"家族"は、大切にしたほうがいいと思うんです。帰りを待ってくれているのなら、なおさら」

 七歳の時、突如として帰らぬ人になってしまった、両親の姿が思い起こされる。

「それじゃあ、行ってくるからな、茉優。ごめんな、寂しい思いをさせて」

「仕事が終わったら、すぐに帰ってくるから。お祖母ちゃんに甘えすぎて、我儘ばかり言っては駄目だからね」

 多忙だった両親が夜分、突然仕事に呼び出されるのはたびたびあることで。そうした日は決まって、二駅ほど隣にある祖母の家でお泊りをしていた。
 よくあることだった。二人の帰宅を、疑いもしなかった。いつものように。

 お祖母ちゃんと夕飯を食べて、お風呂に入って。畳に並べて敷いた布団にくるまりながら、内緒話をして眠りにつく。
 障子ごしに届く柔らかい朝陽に目が覚めると、慣れ親しんだ車の音が聞こえてきて。