「私がマオさんを捨てるだなんて、そんな恐れ多いことあるわけないです……!」

「お、言質とったからな」

 マオはからかうような調子で笑んでから、私の背に回していた両手を頬に移した。
 私が顔を逸らせないよう固定して、甘く緩めた瞳で見下ろしてくる。

「こういうのを、可愛くてたまらないって言うんだろうな。まさか俺がこんなにも誰かに振り回されることになるとは、考えもしなかった」

 愛させてくれ、茉優。マオは請うように囁く。

「受け入れてくれるのは、もっと後でいい。だから今は、存分に愛させてくれ。他の誰でもなく、俺に。その権利をくれないか」

 熱心な赤い瞳にくらくらする。
 こんなにも甘く閉じ込められてしまったら、もう、自分の欲に嘘はつけなくて。

「……よろしくお願いします、マオさん。私も精一杯、大切にさせてもらいますね」

 始まりはたぶん、"私達"ではなかった。
 有無を言わせず惹かれ合ったのは、巡った魂だったのだろう。

 けれどきっと、今の私達なら。
 前世などに縛らず、互いに手を取り合って進んでいけるような気がする。
 マオはめいっぱいに破顔して、

「ああ。不束者だが、よろしくたのむ」