「俺は茉優を誰かに奪われたくない。だが、茉優が俺では駄目だと判断したのなら、従うつもりだ。それまでは……こうして話をして、互いの胸の内を伝え合って。片方に足りないことは、もう片方が補っていけるような。そんな、支え合えるような関係をだな。前世の"マオ"と"ねね"じゃなくて、俺と茉優として。新しい関係を築いていきたいって、俺は思うんだが」

 手を、取ってくれるか? と。
 マオは請うような眼で、私を静かに見つめる。
 その瞳はたしかに、私の姿を映していて。

「……本当に、いいんですか? マオさんほど素敵な方だったら、わざわざ私でなくても、もっといい方を選び放題だと思うのですが」

「茉優は俺を素敵だって思ってくれているのか? 照れるな」

「マオさん、私は真面目に……!」

「俺だって大真面目だ。大真面目に、茉優への気持ちを伝えたつもりだったんだがな。それでもまだ、信じてはもらえないか? もっと言葉にしようか。茉優が許してくれるのなら、行動で示したっていいんだぞ」

「いえ、マオさんのお気持ちを、疑っているのではなくて……」

 申し訳ないんです。
 私はなんとか心の靄を言葉にする。

「マオさんの言葉が嬉しくて。その、初めて好きだなって思えた人に、気持ちを許してもらえて……。私なんかが、マオさんと釣り合うはずがないのに。なのに、嬉しいんです、私。でもマオさんは、私がこんなことを言ってしまったら、ますます受け入れようとしてくれるじゃないですか。それが分かっているのに、その手を取りたいって思ってしまうことが、本当に、申し訳なくて――っ」

 瞬間、ぐいと腕を引かれた。
 よろけた身体を受け止めるようにして、上から落ちてきた身体が私を抱きしめる。
 鼻に触れる、柔い白髪。私とは違う香り。

「ごめんな、茉優。今回限りは許してくれ」

「マオ、さ……」

「俺の心臓、わかるか?」

 心臓? と意識的に息を潜めると、触れ合った胸からどくどくと強い鼓動が伝わってくる。

「今は、それでもいい。申し訳ないって、茉優が躊躇してしまうのなら。嫌なんじゃなくて、手を取りたいって事実さえ伝えてくれれば、俺がこうして迎えにいく」

「マオさん……」

「いったろう? 自信なんてすぐにつく。その時に捨てられないといいんだが」