「いや、違うんだ、茉優。謝るのは俺だ。それに……そうか、俺は俺に嫉妬してたってことか。情けないことこの上ないな」

「へ? マオさんがご自分に嫉妬……ですか?」

 わけがわからないと戸惑う私に、マオは「ああ」と両手で自身の顔を覆って、項垂れながら盛大なため息をひとつ。

「てっきり、茉優に想い人がいるのだと思った。そうか、俺だったか」

「!」

(あ、あれ? もしかして私、とんでもないことを言っちゃったんじゃ……!)

 今更気が付いて、顔に羞恥が上る。
 心なしか、マオの耳も赤く染まっているような。

「なあ、茉優。俺、うぬぼれてもいいんだよな? "逃したくない"って悩んでくれるくらいには、茉優は俺を好いてくれているんだって」

「そっ、れは……! ですが、私がいくらマオさんを好きになっても、そもそもマオさんが愛してらっしゃるのは"ねね"さんですし!」

「あーと、その点については、本当に悪かったと思っている」

 マオは居住まいを正して、

「俺は確かに"ねね"を愛している。いや、愛していた、だな。なぜならそれは、前世の俺の話なのだから」

「……前世の、話?」

「茉優がねねではないように、俺だって、ねねの愛してくれた"マオ"じゃない。記憶はあるが、それはしょせん記憶であって"俺"の話ではない。茉優になら、わかるだろ?」

「なら……それなら、どうして……っ」

「はじめはおそらく衝動だな。前世の記憶が幼い"俺"と同化して、あたかも自分の体験のように感じていたんだ。だが年月を重ねるにつれて、俺もやっとこさ気が付いたんだ。俺は、あの"マオ"じゃないってな」

 マオは昔を懐かしむようにして、窓の外を見遣る。

「時代も違けりゃ立場も違う。ましてや俺は人間ではなく、あやかしだ。途端に今度は、怖くなってきてな。会いたいというより、会わなければになっていた"ねね"と再会した時、あまりの違いに、拒絶されるんじゃないかって。なぜなら俺はマオだが"マオ"じゃない。"ねね"の愛したマオには、俺はなってやれなかったからな」

 だから、とマオは私に瞳を向けて言う。

「茉優に"ねね"の記憶がないと知って、落胆よりも安堵が勝った。"マオ"を知らないのなら、俺を見てもらえる。比べられて失望されることはないってな」

「…………」