「鎌倉紅谷のクルミッ子ってやつでな、ここ最近のイチオシなんだ。現世住みのあやかしにも人気が高くてな、なかなか幽世には数を出せないのもあって、向こうじゃ結構な高値で取引されるんだ」

「え、そんな貴重なお菓子をいただいてしまっていいんですか?」

「仕事は仕事、プライベートはプライベートだからな。これは茉優と俺のぶん」

 ほい、と小皿に乗せられたのは、バターサンドのような、けれどもしっかりと厚みのある長方形の菓子。
 透明な包装紙でくるまれていて、クリーム色のインクでパッケージと同じ二匹のリスが描かれている。右上には「紅谷」の文字。

「クルミっ子……あ、この中のがクルミなんですね」

 ぺりぺりと包装を剥がしながら、サブレに似た薄い生地にサンドされた茶色いクリームの断面に気が付く。
 所せましと詰まった、たっぷりのクルミ。と、マオも包装を剥がしながら、

「運がいいとそこのクルミがハートになっているらしいんだが、茉優のはどうだ? 俺のは……ないな」

「私のは……あ、もしかしてコレですか?」

 くるりと回した反対側に、確かにハートに見えるクルミが。

「あったのか?」

「はい、ここに……」

 マオにも見せようと、自然と上半身と顔を寄せる。刹那、

「あーと、茉優。信頼してくれるのは嬉しいんだが、あまりに無防備だと俺も我慢がきかなくなるというか」

「はい?」

 ぱっと顔を上げた瞬間、視界いっぱいにマオの顔。
 額が触れてしまいそうな距離に現状をうまく処理できずにいると、苦笑を浮かべた彼が、「気付いたか?」と肩をすくめる。

「す、すみません私……!」

 やっとのことで理解し慌てて飛び退くと、マオは「いや、俺もまだまだ青いな」と頬を掻き、

「今は側にいられるだけでいいって思ってたんだけどな。けれどつい、こうも近いと触れたくなってしまう。ああいや、茉優が俺を好いてくれるまで、絶対そうした触れ方はしないぞ。茉優に嫌われたくはないし、怯えられるのも嫌だからな」

「マオさん……」

「あ、引いたか? すまん、こんなこと言われたら気が休まらないよな。だが誓って! 誓って護衛としての境界は越えないから……! 頼むから、出ていけなんて言わないでくれよ? な?」

 上目遣いで手を合わせるマオがなんだか可愛くて、私は「いいません」と笑みを零す。