初めて会ったはずなのに。マオのこと、全然知らないはずなのに。

 前世で夫婦だったなんて、とても信じられる話じゃない。
 このまま連れていかれた先で壺を買わされるとか、二人で暮らすための大金を引き出すためにお金を貸してくれと頼まれるとか、どう考えても詐欺の可能性が高すぎる。
 わかっている、のだけれど。

(どうして全て本当の話だって、受け入れてしまっているんだろ)

 不思議と彼に対する嫌悪感がいっさいない。
 そればかりか、私もまた、やっと会えたような懐かしさと安堵感に包まれてしまうのは、繰り返された夢による"刷り込み"なのだろうか。

「信じてくれたか? つっても、すぐには無理か」

 マオさんは少しだけ、悲しそうに眉尻を下げ、

「北鎌倉にな、俺の世話になっている家がある。血の繋がりはないが、俺の"家族"ってやつでな。親父に探していた嫁をやっと見つけたと言って飛び出してきちまったもんで、たぶん、待望の嫁に会えると期待して待っていると思うんだ。挨拶がてら今後の話も出来たらと思って向かっていたんだが……茉優からしたら、眉唾な話だったな。悪かった。家に帰りたいよな? ソイツに住所を打ち込んでもらえるか。送っていく」

 ほい、と渡されたのは小型のナビ。
 私は反射的に受け取りつつ、

「でも……その、親父さんという方はお待ちになっているのですよね……?」

「いいさ、事情が事情だったんだ。俺がちゃんと説明しておく。……無理強いはしたくないんだ。今はただ、こうして会えて話せて、同じ時間に存在しているんだって知れただけで、長年の想いが報われた気分だからな」

 それに、と。マオはどこか苦し気な笑みを私に向け、

「茉優に嫌われて、もう会えなくなるのは、なによりも辛い」

「……っ」

 その表情に、言葉の重さに。
 ああ、本当に彼は、私を大事に思ってくれいているのだと。

「……行きましょう、マオさん」