「さっきの……里香の告白を聞いた時、お前はちっとも驚いた素振りなんて見せなかった。すでに里香から聞いている線も考えたが、どうにもお前からは、いけ好かない匂いがする」

「奇遇ですね。僕もアナタが嫌いです」

「ちょっ、二人とも……!」

 玄影さんは「大丈夫ですよ。僕は常識ある人間ですので」と宥めるようにして、

「生まれた時から、人間ではないものに敏感でして。あやかしであると暴いたからといって何をするでもありませんので、ご安心ください」

 玄影さんは私へと視線を移して、

「茉優さんとはぜひとも交流を深めたいものですが、今回は引き下がりましょう。再び僕に会える日を、心待ちにしていてください」

「いや、清々しいほどに図々しいな。つーかもう二度と茉優の前に現れるな」

「そのお約束はしかねます」

「なんだと!?」

(駄目だこの二人、一緒にいたらいつまでも言い合いになっちゃう……!)

 なんとかマオの意識を逸らそうと、私はえいやとマオさんの右腕に抱き着く。

「ま、茉優!?」

「ええと、それでは玄影さんは、またお会いできます時に。出来たらホテルなどに泊まってくださいね」

「茉優さんからそう言われてしまっては、無碍には出来ませんね。分かりました、お約束しましょう」

 では、と背を向けた玄影さん。
 けれど数歩を進んでから、「花言葉といえば」と振り返る。

「茉優さんはやはり、ハマユウの似合う人ですね」

「はま……?」

 聞きなれない言葉に首を傾げた私の横で、マオが息を呑んだ気配がした。
 見上げると、驚愕に見開いた目で玄影さんを凝視している。

「では、また近々」

 優雅に会釈してみせた玄影さんは、今度こそ歩いていってしまった。
 私はマオの様子がおかしいことが気になりつつも、くっと唇を引き結び、

「マオさん、私達も帰りましょうか」

 笑んで見せた私に、マオは誤魔化すようにして「そうだな」と笑った。