「里香と一緒だと幸せになれないって、どうして決めつけるの!? どうしてあいりの気持ちを聞いてくれないの!? どうして、どうしてあいりを嫌いになったのなら、もう二度と関わるなって、本気で拒絶してくれないの……っ!」

「ちがっ、あいりを嫌いになるなんてあり得ない!」

「なら、好き? 好きだよね? あいりのことが好きだから、この爪、赤くしてくれてるんだよね?」

 里香さんの身体に乗り上げながら、左手の指を絡めるあいりさん。
 耳まで顔を真っ赤にした里香さんが、観念したように「……すき」と零す。

「すき、あいりが、大好きだよ。大好きだから逃がしてあげなきゃって、考えて。けど、やっぱり、出来なかった」

 ねえ、あいり。
 里香さんがあいりさんの額に自身の額を当てる。

「アタシ、独占欲強いよ。あいりのこと、束縛して、自由になんてしてあげらないと思う」

「いいよ。いっぱい縛って。あいり、里香にだったらどれだけ縛られたって、嬉しいだけだもん」

 互いに手を重ね、微笑み合う二人。
 私はほっと胸に手をあて、

「和解、されたようですね」

 感動にうっかり泣きそうになっていると、

「どっちが"蜘蛛"なんだか。まあ、茉優が喜んでいるのなら、なんでもいいけどな」

「ねえ、ちょっと」

 声に、私達は揃って玄関を見遣る。
 そこには里香さんと手を繋いで立つあいりさんが、剣呑な目つきで私達を睨み、

「あいり、これから里香とだーいじな話をしたいから、全員出てってくれない? で、もうここには誰も来ないで」

「……ったく、誰のおかで収まるとこに収まったと思ってんだが」

 帰るか、と。
 マオに促され、私も「ご利用ありがとうございました」と里香さんに会釈して、部屋を出る。
 里香さんは優しい笑みを浮かべ、

「色々、ありがとう。アンタも、上手くいくといいね。逃がさなくていいほうにさ」

「ありがとうございます。頑張ってみますね」

 と、私に続いて玄影さんが部屋を出た。
 手には黒色のボストンバッグを持っている。

「では、これにて契約終了ということで。ご主人様、お世話になりました」

 首輪を外し、恭しく一礼をする彼に、

「うん、元気でね。次はいいご主人様と会えるといいね」

「おや、ご主人様も、とてもお優しい主人でしたよ。どうか、お幸せに」