「私、最初は里香さんが、あいりさんと離れたがっているのだと思いました。そのために、私達が呼ばれたのではないかと。けれど里香さんは、私達にこの目薬になってほしかったんですね。離れてしまったお二人を元に戻す、小さなきっかけに」

「……違う。私は、あの子と離れないとだから、元に戻るなんて――」

 コトン、と。玄関から届いた小さな音に、四人が視線を向ける。
 動いたのは玄影さんで、マオは静かに私の側に立っていた。
 郵便受けが開けられる。取り出されたのは、六枚の白い花弁を開いた星型の花。中央は紫色の細かな花弁が。

「白い桔梗……?」

 呟いた私に、マオが「いや」と応えて、

「おそらくは、クレチマスだろうな。それも、テッセンという種類の」

 頷いた玄影さんが引き継ぐ。

「クレチマスの中でもテッセンという種類は、単体の花言葉を持つんです。テッセンは、"鉄線"。ツルが鉄のように強く堅いことから、日本でも古くから鉄線花と呼ばれ親しまれてきました。花言葉は"甘い束縛"、"縛り付ける"。そして、この花の美しさからちなんで、"高潔"」

「束縛、縛り付ける……!? まさかあいり、気づいて……っ」

「里香さん!?」

 膝を抱えるようにしてうずくまった里香さんの肩に、慌てて触れる。
 ――震えている。

「アタシは、蜘蛛なんだ」

「え……?」

「この身体には、女郎蜘蛛の血が流れている。好いた相手を身勝手に縛り付け、不幸に陥れる、女郎蜘蛛の血」

 里香さんは自身の身体を抱きしめるようにして、

「自分は平気だと思っていたんだ。子供の頃から他人にはあまり興味がなかったし、女郎蜘蛛だったのは辿るのも面倒なくらい、何代も前の先祖だったから。だけどやっぱり、アタシは女郎蜘蛛だった。あいりが仲良くしてくれて、初めて自分よりも大切な存在が出来たと思ったら、どんどん、おかしくなっちゃって……。あいりが他の人に笑いかけるのが嫌だ。あいりが、アタシ意外の誰かに好かれるのも嫌だ。ずっとアタシだけを見てて、ずっとアタシの側にいてくれたらいいのにって」

「っ、里香さん、それは……」

「アタシは、アタシはあいりを私なんかに縛り付けたくないのに、制御できない欲求がもっともっとって溢れて来るんだよ。はじめはなんとか誤魔化して、友達でいようと思った。けど、無理だった。アタシには、この蜘蛛の糸が切れない」