「そうやって他人に理由を求めてばっかりじゃ、どれだけ時間が過ぎようと何も変わらないぞ」

「……っ」

 行こう、と。マオは私の肩を引き寄せたまま歩き出す。
 あいりさんは俯いたまま佇んでいた。心配だったけれど、これ以上何か出来るようにも思えなくて、私も彼女から視線を切り歩き出す。

 無言のまましばらく行った所で、後ろを確認したマオは「悪かったな、茉優」と私の肩に回していた手を離した。
 なにかあった際に、即座に守れるようにとの行動だったのだろう。
 そう予測が出来るくらいには、マオとの付き合いも深まってきた。

 あまりの近さに心臓がドキドキしてしまったのは、生理現象のようなものなので許してほしい。
 私は「いえ、ありがとうございました」と一礼してから、

「あの子が"ストーカー"だったんですね」

「だな。ったく、隠す気もないどころか直接対峙してくるなんて。あんなまどろっこしいやり方で牙をむくくらいなら、直接本人と話せってんだ」

 くたびれたようにして、マオが頭をかく。

(……なんだろう、この違和感)

 たしかに強烈な子だった。
 里香さんに確認のできない今、里香さんか彼女とどういった関係だったのかなんてわからない。

 あいりさんの言い分だけを聞くのなら、きっと二人は深い中だったのだろう。
 "恋人"ではないけれど。

(恋人ではないけれど、里香さんはあいりさんを拒絶した?)

 それを受け入れられなくて、嫌がらせが始まったのだろうか。
 起因が里香さんだったから、出来るだけ穏便に解決したいと、私達が呼ばれた。
 あいりさんを止めるため。

 そもそも里香さんは、あいりさんが自分に接触してはこないと考えている。
 けれど、玄影さんと一緒に住んでいるのは、あいりさん向けの対策で……?

(分離したネイル。同じ色の指。足と、手。左薬指)

 その時、どうしてか、玄影さんの姿が過った。

『本当……捨てるばかりが道ではありませんね。特に、自分で捨てきれないものは』

「……マオさん。もしかすると私、大きな勘違いをしていたのかもしれません」

 もしかしたらマオは、すでに気が付いていたのかもしれない。
 見上げた私に苦笑を浮かべると、「面倒事を引き受けちまったな」と同意を示すようにして頷いた。