「夢で俺を見たのだろう? 俺も、"繋がった"夢で見たのはその姿だった。だから見つけられたのだしな。俺が呼びかけていたのは"ねね"の魂で、俺達は互いにつながったのだから、間違いはない。それに……俺にしかわからないだろうが、あの頃の面影が残っている」

 細められた双眸は、ひたすらに優しく甘い。
 思わずドキリと跳ねた心臓。私は慌てて"ねね"さんじゃないんだから、と必死に戒める。

「名前は、なんていうんだ?」

「へ? あと、白菊茉優です」

「茉優か。綺麗な名前だな。俺はマオだ。……あの頃と同じ、な」

 彼――マオは落ち着いた声色で、

「俺達は前世で、夫婦《めおと》だったんだ」

「め、おと……?」

「そ、夫婦《ふうふ》ってことだな。そして来世でもまた必ず夫婦になろうと、約束した。俺はその約束を果たすために、ずっと探していたんだ」

 約束。その単語に、夢の光景が過る。

『必ず、必ず見つけ出す。なあに、"契り"を結んだこの小指が、必ず巡り合わせてくれるさ。だから、だから次こそは――』

 姿は見えずともひしひしと感じる、縋りつくような、必死の声。
 今私の隣にいる、落ち着き払った彼とはうまく繋がらないけれど、確かに声はマオのもの。

(あれはもしかして、前世の記憶……?)

 確かめるようにして右の小指を立てると、

「! 思い出したのか?」

「いえ、違くて……夢の中で、マオさんが言っていたんです。"契り"を結んだこの小指が、必ず巡り合わせてくれるって」

「……よりによって、残っていたのが"その時"なのか」

「マオさん?」

 彼は「ああ、いや」と気まずそうに頬を掻き、

「おそらくそれは茉優が……とういうか、"ねね"が息を引き取った時の記憶だろう。声ってのは最後まで聞こえているなんて言うが、なにもそんな……情けないところを残されているとはなあ。残るのならもっとかっこいい場面が良かったんだが、神ってのは意地が悪いな」

「すみません……」

「茉優が謝ることなど一つもないだろう。それに、"かっこいい俺"を知ってもらう時間は、これからたっぷりあるしな。……約束を交わしたのだと、それを覚えてくれていただけでも、心底嬉しい」

 向けられた愛おし気な眼差しに、ぐっと胸の奥が締まる。
 なんだろう、この感覚は。