「いやあ、こんな立派な屋敷、あんな奴が住むにはもったいないお屋敷ですよね。アホドー、でしたっけ。」
「シンディー。それ、素で間違えてるのか……? アホじゃなくて、アクドーな。
まったくだよ。もちろん、テンマの屋敷も立派だけど、こっちはちょっと華美すぎるな」
今日見てきた町の現状を思えば、なおさらだ。
本当は絵画や背の高いカーペットなんかに費やすのではなくて、町のためになることにお金を回すべきだったろうに。
そうは思えど、今更アクドーの政治に苦言を呈しても仕方がない。
とにかく言えるのは、すでにあるものならば利用しない手はないという事実だけだ。
「ディル様がご不在の間に、ちゃんとお掃除と手入れはしておきましたから安心してお使いくださいな」
「おぉ、助かるよ」
「そりゃあもう。主人がいないところでも、ちゃんと家のために働くのが妻の務めですから♡」
シンディーは、また冗談を言って、とんと胸を張る。
そんな彼女をアポロは眉を落として心配そうに見つめた。シンディーの手をにぎったと思えば、思いつめた声で言う。
「シンディー、大丈夫? やっぱり早くに治療をいたしましょうか。どうやら現実と妄想の区別がついていないようです」
「だーかーらー、いりませんってば!!」
ボタンを掛け違えたようなやり取りに、俺はついつい吹き出す。
稀代のヒーラー・アポロ。どうやら真面目がすぎるあまり、冗談が通じないらしかった。