「ディル様、お帰りなさいませ! 思っていたより早かったですねっ? あ、もしかしてわたくしに会いたくて早く帰ってきちゃいましたか? 嬉しいです!」

玄関扉を開けると、いきなりシンディーが飛びついてきて、俺は大層驚いた。
後ろにじりじり後退する俺に構うことなく、シンディーは胸に頬を擦り付けてくる。

だが、新たに召喚したヒーラー・アポロを伴っていることに気付くや、その目がじとっと湿気を帯びたものに変わる。

「わたくしがいないところで、アポロさんを召喚して、なにしてたんですかっ!! まさか、わたくしがいないのをいいことに、心の傷を身体でヒールしてもらったりなんてこと……」
「いや、ただ病人がいたからヒールしてもらったんだよ。なんとか言ってくれないかな、アポロ」

「そなたが騒がしいのは昔と変わらないようですね、シンディー。少し落ち着くよう、ヒールをかけて差し上げましょうか」
「結構ですっ!!! そうやって私を眠りにつかせて、また二人で心の傷を癒しあったりするつもりでしょっ!!」

……いや、そんなつもりはないんだけどね?

一人、白熱するシンディーをなだめながら、俺たちは屋敷を中へと入っていく。



路地裏でたむろしていた盗賊団をひっとらえ、少年の母親をヒールしたのち。
俺は、ローザスにある屋敷へと帰ってきていた。

来る前は、長居するつもりなどまったくなかった。あくまで俺が拠点を置いているのはテンマであるから、視察を終えたら戻るつもりだった。

だが、いかんせんこの町は、アクドーの悪政により問題だらけだった。

今日の盗賊団退治などは、その問題の一角にすぎない。色々ときなくさい噂も耳にするので、しばらく滞在し調査することとしたのだ。

幸い、施設は整っていた。