盗賊らに絡まれていた少年は、まず俺の顔をまっすぐに見た。
そして言うには、

「信じてください! 僕、ほんとに盗みはやってないんだ。ほら、なんにも持ってないでしょ?」

とのこと。

あらゆるポケットがひっくり返されるが、身銭の一つ出てこない。
嘘はついていなさそうだが、気になるのはそれ以前のことだ。

気絶したままの男らを目の端で見ながら、聞く。

「どうして、あんな奴らに関わったんだ?」

少年は、一度うつむいた。それから、悔しそうに声音を強める。

「どうしても、お金が欲しかったんだ……。それで、仕事をしたらお金をくれるって言うからついていったら、盗みをしなさいって言われたんだ」
「お金が欲しかったのか……。それにも理由があるのか?」

「う、うん。僕のお母さん、病気なんだ。でも、そのお薬が高くて買えなかったの。
 でも、宝石を奪えば、なんでも治るポーションをくれるって言うから……」


まったく、外道極まりない連中である。
俺は再度、白目を剥いて倒れたままの男たちを見て、ため息を吐いた。

そんなものが、あるわけがない。
Aランクポーションでさえ、なんでもは治らない。

男らは、初めからこの少年を騙すつもりだったらしい。

「お兄さん、どうにかなりませんか……?」

まだ疑うことも知らないだろう瞳に、涙が揺らぐ。


「若様……、どうされるのです? ポーションは専門外なのでは」

バルクの言う通りではあったが、見て見ぬ振りはできない。
ここで子供を突き放しては、ラベロの名が落ちるというもの。

「いいや、大丈夫だ。うん、なんとかしてみせる」
「お兄ちゃん、ほんと!?」
「あぁ、秘策があるんだ。さっそく、お母さんのところへ案内してくれるか?
 バルクさんは、こいつらを収容所まで運んでくれませんな。自衛団の方々を使ってくださって結構ですから」

バルクが、「はっ! かしこまり申した」とお固い答えとともに、表通りへと出ていく。

俺は少年に案内を受けて、彼の家まで向かった。

こじんまりとした一軒家にあげてもらい、寝室へと通される。

ベッドに横たわり、布団を被っているの女性が彼の母らしい。

口をきくこともままならないろうで、虚な目でこちらを見る。

「……お兄さん、どうするの? もしかして、高いポーションをもってるの?」
「いいや」
「じゃあどうやって……」
「まぁ少し見ていてくれよ」