ちょうど、大蛇がその巨体を俺へと打ち付けようとしてくるところだった。

俺は、詠唱を唱えながら大蛇に切り掛かる。
魔法なしで切りつけたところで、身体に傷の一つすらつけられない。

が、さきほどの詠唱により、もし魔法がつかえるようになったのなら。

「ラベロ流・半月上弦斬り!」

半ば祈るようにして肩上まで振り上げた剣を振り下ろす、渾身の一撃をはなつ。

それを見舞うとともに、つい目を瞑ってしまった。
死ぬかもしれない、と思った。

悔いだらけだが、仕方ないとまで考えたし、世話になった人の顔が駆け巡る。
両親やゲーテ王、さらにはナターシャ――。彼らのこれからに幸があるよう祈りを捧げていたのだが……。

待っても待っても痛みはやってこない。
どういうわけか、俺は生きていた。大蛇が叫びあげるので、そろりと目を開いてみて、驚いた。

「我輩のなりそこないが、偉そうに吠えるでない。蛇よ」

揺れる白薔薇の花弁のよう。そう思ったが、違う。
これは白色の鱗だ。その証拠に、わずかに脈動している。

龍が一匹姿を現していたのだ。