「ディルック様に教わったとおりに動くぞ。こういう時こそ、個々の動きではなく全体を意識しろ! 右手が手薄だ!」
 その命令は、この緊迫した状況下でもとても的確なものだった。
 彼は、文官だった頃のディルックと関わりがあった。ラベロ家が代々各地の護衛を司っていることを知っており、戦術や傭兵術を習っていたのだ。
「なぜ、僕の言うことを聞かない!! 貴様ら、全員クビにしてやろうか!?」
 なおも吠えるアクドーだが、その脅しに耳を貸すものは誰一人としていない。
 夜の戦場に、その声はただむなしく響き渡っていた。
 結果として、魔物らの襲撃が王都にもたらした被害は、最小限のみで済んだ。
 しかしこのアクドーの大失態が招いた事件は、王の耳にも届くこととなる。