ところ王都にて。アクドーは頭を抱えていた。
 部下からの忠告を無視し、現実逃避へと走った代償は、あまりにも大きかった。
「な、なんだと……王都へ、魔物の侵略を許した!?」
 その夜も、なすべき仕事を放棄し街で飲み歩いていたアクドー。
 もたらされた情報は、ご機嫌だった彼を、一気にどん底へと叩き落とした。報告にきた者は焦った様子で、続きを伝える。


「は、はいっ。今しがた、西の山より侵入を許したとのことです」
「なぜだ、警備兵たちはどうしたと言うんだ」
「それが、明白な指示が与えられなかったとかで、対処がうまくいきませんで……」
 肝が冷え、一気に酔いの覚める心地がアクドーを襲う。
 そういえば、魔物の侵入について判断を仰がれていたのだった。
 うろ覚えの記憶が、段々とはっきりしてくる。
 まずいことになってしまった。
 これが王に知れれば、このまま街が荒らされては大問題である。
 せっかく憎きディルックから奪った地位を、剥奪されかねない。
「おい、くそ伝令! 早くその場所を教えろ、僕がじきじきに行って指揮をとってやる!」
 鍛えてこなかった頭をひねった結果が、こうだった。
 戦果をあげて、もみ消すほかない。
 実に安直な考えだったが、とにかくアクドーは酒の回ったまま、戦場へと向かう。
 王都の西側からやってきていたのは、タテガミウルフなどの小物から、怪鳥の別名があるクレイジーバードのような大物まで。
 多種多様な魔物である。
 すでに、衛兵や冒険者たちが入り乱れるように戦闘に入っていた。
「僕が来たからには、もう大丈夫だ! さぁ、僕の命令通り動けよ!!」
 その中に割って入り、アクドーは声をあげる。
 しかし、誰もそれに耳を貸すものはいなかった。各々が必死に戦闘している空間に、それは場違いに響き渡る。
 アクドーの悪評は、部下たちにより、この場にいた兵士らにもう広まっていた。彼が判断を遅らせたことが、この状況を生んでいることも、もちろんである。
 彼に従っては命を落とす。
 誰もがそう判断をしていた。名家の息子とはいえ、戦は地位で争うものではない。
 それを兵隊たちは、よくわかっていたのだ。
 彼らが指示を仰ぐのは、王都衛兵団の団長である。