俺が諦めの境地へと至る寸前、

「わ、私も腕輪ほしい…………かも」
 とか細い声が部屋の扉の奥から聞こえてきた。
 給仕を終えたアリスが、聞き耳を立てていたらしい。
「残念でした~。これは、わたくしの腕輪ですよアリスちゃん!」
「うっ……でもディルック様とお揃い羨ましい、あたしも欲しい」
「むー、渡しませんよ主人のことは! わたくしが先に召喚されたので、わたくしがお嫁さんです」
 いや、なにその理論。それでいけば白龍が嫁になるんだが?
「でもでも、あたしが毎日ご飯作ってるし、これって実質その、お嫁さんって言うんじゃ……」
「そ、それはズルです、ズル! ちょっと料理が得意だからってぇ。それを言うなら、わたくしは毎日同じベッドで寝てます!」
 むしろ、勝手に入ってきて困っているくらいだが……? まあ、そうは言っても今や慣れてしまって、わざわざ注意することもなくなったが。
「というかアリスちゃん、新入りのくせに~!!」
 シンディーは、やけを起こす。まるで、後輩いびりをする先輩みたいなセリフだ。
 扉一枚を挟んだまま、小競り合いが繰り広げられ始める。
 女子同士のやり合いに置いてけぼりにされて、俺はドワーフの彼に手を合わせる。
「じゃあアリスの分と、それから白龍の分も腕輪をお願いしていいかな? 大きさは、人間の腕と同じくらいにしてくれれば、白龍の指にはまると思うから。後から揉めたくないしな」
「ほっほ、うまく纏めますなぁ領主さまは!」