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アリス・アリシア。
美しくも小心者な料理人を召喚したことで、最も不安のあった食料問題が解決へと向かう中、

「ディルック様! こちらをご覧になってください、いかがでしょう。おらたちの技術を結集して作った魔導農具です!」

 生産面では、より大きな一歩が踏み出されようとしていた。

 アリスの料理により、常にいいパフォーマンスを発揮できるようになったのが、功を奏したらしい。

 ドワーフの族長・ドワドが俺たちの屋敷へと持ってきたのは、魔導農具だ。

 例の変形する鎌である。これは、魔法で作り出したものではない。

 ドワーフらが手ずから組み上げたものだと言う。

「わぁ、ほんとによくできてますねぇ! わたくしの作ったものとほとんど差がありませんわ……」
「うん、本当に高い再現度だな。正直、見分けがつかない」

 応対したのは、俺とシンディーの2人。

 召喚して以降、アリスも同じ館に住み始めたが、彼女の人見知りは健在だ。お茶を出すだけ出して、すぐに引っ込んでしまった。

「動きもかなりよくできてるな」
「はいっ、ちゃんと変形もします……」

 俺たちは、持ち込まれた道具に驚きの息を漏らすしかなくなる。

 ずっと魔道具の調査や、作成法は探ってもらっていた。

 それがついに結実し、高次元での複製に成功したらしい。
「いやぁ、あんなに素晴らしい道具を分解させていただいたおかげでさぁ。おらたちも、勉強になりました。組み立て図も作成しておりますゆえ、再現は可能でさぁ」

 俺より頭二つ分ほど下で、白髭面がほっほと笑う。

「おかげさまで、工場の方ももうすぐ完成いたします。これが出来上がれば、さらなる量産もできますぞ」
「それはよかった。力を余している村人たちにも、作業に加わってもらえそうだな。指導してもらってもいいかな?」
「もちろんですとも。いやしかし、人族と同じ場で働くことになるとは感慨深いですなぁ。それもこれも、領主さまの徳のおかげです」

「テンマ村の人たちがいい人だからですよ」
「それもありますが……。あなた様が、彼らにも、おらたちにも分け隔てなく接してくれているおかげでございます。これからも、どうぞよしなに」
「うん、もちろんだ。こちらこそな」